蛤は…夢を見る。

   夢を見て、蜃気楼を吐き出す、

と言う話はまた別の話(笑)

なんにしろ、ロマンティックな物言いである。

磯の貝は、蛤は、夢を見て、人間を夢の中に誘い込んでしまった。
夢で暮らすこと40余年(びっくりもんである!)

夢から覚めた人間を、どーしてくれる?
おうおう、責任とってももらおうかい?
なんて無粋なことは、むかしむかしの人々は、言わないものなんである。

人間界に魅かれて里に下りてきた鬼の子供の話。
人間の檀家が減って、代わりに化け物のなやみ相談で賑わう"化け物寺"

皆、おおらかで、優しい心根の持ち主、というところが、この物語が私たち現代人を惹き付ける魅力なんだと思う。
人は自分にないものに憧れるからなぁ〜(笑)

大根(嫁)×芋(婿)=芋の子(サトイモ)(子供)

…うまい!

ISBN:4267015767 文庫 坂田 靖子 潮出版社 ¥530
日本昔話…風、坂田ワールド。

「気のせい気のせい」
と面妖な出来事を飲み下してしまう登場人物が特徴的な坂田さんの漫画。

短気で普通な(人間と言う意味で)男・阿倍晴明も出てくる。

狐に理屈(屁理屈に思えるが)を説かれて納得してしまう晴明なんて…(笑)

物の怪だとおもったら、人間だったりして逆転劇のおもしろ話もあるけれど、やっぱり、カッパが可愛いかな…?


ISBN:4267015759 文庫 坂田 靖子 潮出版社 ¥530
隔月巻なのに、もう5冊目が出ました。
早いものです。

中身がぎっしり詰っている本(絵本なのに〜!?)なので、読むのに時間がかかります。
が、ぎっしり詰っているので充実感はあります。
宋江どのは相変わらずのようだし、智多星どのはどんどん人が悪くなっているのでは…?

次回登場(予告)の一丈青♪
とっても楽しみです。

あ、そーいや、おまけ第一弾がついてくるんだわ、次の配本時には…。

しかしおまけってなんだったっけ?
水滸伝トランプだったらどうしよう…
いっとき凝ったことがあって、トランプ類はいっぱい買ってるんだけどな……中国で(安かったし)

水滸伝だったら、切り絵も。
結構高かったけど買ったし。
なぜか、108枚以上あったけどさ(笑)

          ……おおらかなお国柄だわ〜。

ISBN:4312010145 単行本 森下 翠 魁星出版 ¥2,625
テレビ化?
 知らない。

でも知っている…「ヤヌスの鏡」は。

二重人格者の話でしょ?
あれって随分むかしだったんだなぁ〜とシミジミ思い返す私であった。

某高校に勤める保健養護の先生。
その正体は…!

学校で起こるさまざまな事件(単純に学校向きとは思えないシュールな事件も起こる…学校のロッカーで女生徒の死体なんて発見したくないです)を次々と解決する、スーパー探偵(?)
それが、通称"保健室のオバさん"
その活躍を綴る。

しかも普段は、ひっつめ髪にとんがり眼鏡で、昔の教育ママ・スタイルだというのに、その実態は…!
なんと絶世(?)の美女!

そういえば。
保健室の先生って、必要な時にはいなかったよな〜。
どこへ消えてたんだろ?
そのくせ、口うるさかったり、男子生徒を贔屓していたり…していたよなー。
しみじみ(あまり良くない)思い出が蘇る午後であった。

ISBN:4086180286 文庫 宮脇 明子 集英社 ¥630

Landreaall 9 (9)

2006年12月27日 読書
待ちに待った最新刊!

学生生活は能天気に♪楽しく♪友達作ってバカ騒ぎ♪

…とはならず、だんだんシビアな様相を呈してきた。

竜胆は国に帰ったものの、お家騒動の真っ只中に。
DXのお見合い騒ぎと円卓会議、王への道は"勝手に"整えられつつある(がんばれ!アンちゃん!)

大人の論理に揺さぶられながらも、一歩一歩自分で歩いて、少しづつ力をつけてゆくしかない。
大切なものは自分で守ってゆくしかないのだ。

若者らしく、ちょいと恋の予感染みたものもあるにはあるが…まだ「自分が何がしたいか分からぬ」様子のDX。(だから感情で動く)

彼はこれからまだまだ見て触って知って、そして道を選ぶと言う大仕事が待っているのだ。

ISBN:475805262X コミック おがき ちか 一迅社 ¥580
最終巻とはいや知らず。
そうか…おわっちゃうのか…最初は世界観とかリズムとか、良く分からなくて困ったものの、面白かったんだけどね。

悪魔と契約し、願いを叶えてもらう代わりに、その代金(負債)をこつこつと返さねば成らない使命を負うのが<銀符>。
借金の返済に充てられるのは、地獄の魔王の好物…つまり、<邪悪な魂>である。

銀符はぎらぎらした悪人を探し、銀の鷹でその魂を狩る旅を、負債を完済するまで続けることに成るのだ。
完済する前に命が尽きた時は、次の銀符を教育することで負債に当てる。

…とまぁ、よく出来た世界観だし契約だと思う。

銀符は、ゆえに、一般人から恐れられ、聖職者からは悪魔のように唾棄される存在ではあるが、主人公・フレデリカはただの銀符ではない。

彼女は純粋に怒る。
悪に対して。
絶対悪に対して。

それが悪魔だろうと神さまだろうと人間だろうと、関係ないのだ。

彼女は<悪>を憎むだけなのだ。
(口は汚いけど)
だから、彼女は穢れていない、と"彼"は言うのだ。

ラストの大ど〜んでんがえ〜し!!
すごい!
ぜんっぜん気がつかなかった!
これはすごい。

最高の盛り上がりをここにもってくるのか!
ストーリーテーラーとしての著者の実力を見た一作であった。

う〜ん、大満足♪

ISBN:4758052638 コミック おがき ちか 一迅社 ¥580
友人よりレンタル。

20世紀の前半。
アドルフ・ヒトラーを「詳しくは知りませんが」という英国人が登場する時代。

とある大公国を巡って、ドイツ・英国そして海外領土へ野望ある国々の影の闘争が始まろうとしていた。

英国の田舎の(英国貴族は田舎が好き)とある城館にあつまったさまざまな立場の人々。

アメリカの大富豪。
英国と大公国の外交官ふたりづつ。
洒落モノで遊び人の若い男。
城館記事を書いている記者。
落ちぶれた令嬢。
その他いろいろ…

アメリカ人の富豪が持ち込んだ50万?のダイヤ。
伯爵家の先祖が作ったという秘密の通路と、現伯爵自慢の最新のセキュリティシステム。

そして、彼らを襲う連続殺人。

1970年代に黄金期"だった"
というあおり文句を帯に背負ったこのシリーズ。
楽しみに読み始め。


……お金持ちに知り合いがいると、滞在費はただで、豪勢な食事とベッドと楽しみを与えてもらって暮らせるのだ。
そうか、(リッチな)英国貴族(に知り合いを持てば)遊んで暮らせると、こういうこと。

また、そういう招待を次から次へと受けて一年中あっちへふらふら〜こっちへふらふら〜と出かければ、自分の家も財産もいらないかも。

もっとも、そのためには、"そこにいるだけで話題になる""客寄せができる"ぐらいの有名人に成らなきゃいけないけどね。

「有名」と言うだけで生きてゆける、と言うのは、こういうことか。

ISBN:4594052215 文庫 宇野 利泰 扶桑社 ¥980
御手洗君と石岡君、京都迷走中
時代設定が、昭和11年前の事件を、ほぼ40年前といっているところから、昭和50年代と考えられる。

著者・島田氏のデビュー作品だから、物語の設定自体も時代は遡る、のは当たり前だ。
時代が数十年分しか変わらなければ、それをついつい忘れてしまうのは読者の悪い癖なのだ。
これがいっそ明治大正以前なら、錯覚することなどないのだけれど…。

何を言っているかといえば、京都市内を御手洗君と別行動で探索する石岡君に関してのことである。
西院から河原町へ出る、電車のホームに陽がさして…という記述で「へ?」と引っかかってしまった。
西院(西大路四条)から四条河原町への電車と言えば、阪急電鉄しかない。
そして阪急電鉄は、西京極から東へ走ってすぐに地下に潜るのだ。
つまり地下鉄。
なんで陽がさすの〜?……昭和50年代と言うことを忘れていた。
私が中学・高校の頃は、ふつーに大路を市電が走っていた。
つまり、これは市電の話なのだ。はい、納得しました。了解です。
失礼致しました〜(笑)


昔すんでいた鹿ケ谷…は、哲学の道のすぐ上、10Mほどしか離れていない。
鹿ケ谷と言えば、平家物語の方が有名だけどね。
一度も入らなかった某喫茶店が昭和50年代には既に存在していた…と知ったのもちょっと驚きだった。

ルンペン染みて、野良犬ですら逃げ出してしまう風体の御手洗君が走り回ったのか…あの場所を。

名前の高貴さに似合わずいきなり駅前に夜のお店♪が立ち並ぶ、なんて赤裸々に描写されている大阪・香里園には友人が住んでいる……ので、つい噴出しそうになるし。

上新庄…は勤め先の倉庫がある。
当時は、淀川に接した鄙びた場所も多く残っている、と描かれているが、その通り。
倉庫をそこに設置したのは、地代が安いのと、危険物・劇薬などを扱う関係上、人気のない場所をさがしたからだ。

………なんて。
地元が舞台だと、現状と比較できて非常に楽しいねぇ♪

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「読者への挑戦」
が、パート1だけでなく、パート2も在るのがおかしい。
島田氏も、デビュー作ではこんなことを…と微笑ましく想った。
あの、ひねくれた発想と事件と謎解きと、それをうわまわる、性格のねじれた探偵を書いている作者が…!

うん。
最後の方になると、もしかして…とは思ったけど。
一人足りない〜?ってお菊さまか(笑)
(この場合は一人多い〜♪が正しいのか?)

島田氏の小説は後の作品は想像も推察も追いつかなくなるからなぁ〜。
最初だけでも分かってよかったのかも。
実は、ちょっと古い小説。
でも、舞台が…昔、中学生時代にすんでいたあたりが出てくるので興味があったのだ。
ずーっと。
興味があったのになかなか買わず、ようやく今頃購入。
でも、友人に後で聞いてみたら「もっていたような…」という答えが。
ああ〜先に聞いてからにすればよかった!と後悔先に立たず、である。

昭和11年。
といえば、戦前。
まださほど、しめつけも酷くはない時期だろうか?(生まれていないのでわからん)
自分の娘を含む女を何人も殺し、その部位をかき集めて"調和の取れた女"を作ろうとしている、異常者の日記から話は始まる。
調和、というのは、すなわち、西洋占星術による調和のことである。
生まれ月、正座、そのほかには、そのときのナンタラ星がドコドコの影響下にあったから、云々カンヌン…。
その性格とか人生まで支配する、という。
娘達の生まれ月と正座で、祝福されている(力の一番強い)体の部位は全部違っている。
違っているので、その強い・完全な・祝福された部位をかき集めようというもの。
つまり、その元となる娘達の命は失われる。
当然のことながら。

たしかに、これだと精神異常だといわれても仕方があるまい。
しかも自分の娘をメインにした人選である。
おかしいと言わざるを得ない。

だけどだけど。
先妻・後妻・先妻の子供・後妻の連れ子・自分の子供…といろいろたくさん入る中で、自分の財産にまでも煩く口を出してくるようでは、家族と言えども…否、家族だからこそ、うっとおしく思えるのか。
思い余って始末してしまおうか、などと考えてしまうのか。

とりあえず。
折角買ったので、読み始め。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
なにやらの日に、なんたらの星が、なになにの影響下に入った(例えば金星に重なったとか)ので、金星の影響力を大いに受ける。
その人生においても。
なんていう考え方=占星術は、じつは古く古代エジプトからある。
「創世の守護神」(グラハム・ハンコック著)
では、スフィンクスは獅子座との関係が深く、獅子座がとある方向に位置する時代(千年期)に、その建造が行われたに違いない、と述べている。
詳細は当該本を読んでもらうのが一番分かり安いが、そう考えてゆくと非常に面白い。
面白い思考法なのだ。
だから、占星術に嵌まる気持ちはわからないでもないよなぁ…と思っちゃうのが要注意(笑)

でも主体はあくまでも自分。
自分のために占いは助言者、サポートとして存在するのであって、占いに主導権を持たせて振り回されるのは愚の骨頂である。

西洋占星術に限らず。
なにごともね。


ISBN:4061833715 文庫 島田 荘司 講談社 ¥750
多数の作家(9名)による短編集。
久々にきちんと時代小説を(文庫本とはいえ)買ったような気がする……。

最初は、赤穂浪士をかげながら支えた(武器の調達・資金の調達など)大坂の豪商・天野屋利兵衛の話。

迷う大石に、商人の身でありながら武士の意地を試そうとする利兵衛の、まさしく真剣勝負である。
「さぁ、どうする?仇を討つのか?どうするのか?」と迫る、利兵衛の声が聞こえてくるようだ。
こうまで言われては、本当は敵討ちなんか馬鹿馬鹿しくってやっていられない!と思っている大石だって、やらずには済むまいよ。

9名の作家のうち、読んだことがあるのはせいぜい山本周五郎。
あとは初めて読む作家ばかりなので、ちょっと楽しみ。

いや。だいぶ楽しみ。

<商人力>
って言葉は、ちょっと粋で、どきどきする。
祇園祭りだって、町衆の心意気を見せよう!というお祭で決して官の押し付けではない。
時代祭りに到っては、近所のおっちゃんたちが裃つけて、仮装して、かしこまって都大路を練り歩いている。
だから、隣でおばちゃんが、「○○さ〜ん!がんばりや〜!」と掛け声をかけたりする。
すると、裃つけちゃおっちゃんが、刀をさして槍をもっての武将の格好で馬に乗ったおっちゃんが、ちょっと照れながら手を振り返す。

まるで、町内運動会みたいだ。

でも。
そこいらが、ちょっといい。
格好いい、と思ってしまう。

ISBN:4087461106 文庫 細谷 正充 集英社 ¥680
画集の名前「夜隠」ででないでやんの……。

    ちっちっちっ。認識不足なヤツめ。

思ったより薄い〜。
カラーイラスト56点って、本にしちゃうとこんなもんかい?
厚さは1センチをきっているよね…。

画集というのはねべてとってもお値段がいいので、悩めるところだ。
これも随分考えてから、ポチッと注文した口である。
まぁ〜尾白&尾黒が可愛いから許すか。

優しい色合いといえばそれまでだけど、中間色でここまで妖艶に描けるよね、この作者は。
着物だから季節ごとの花鳥風月草木との密接なかかわりとかデザインとか…そういうのを見るのも楽しいのだ。

花によって季節をどうするか?とは誰でも少しは悩むところ。
決して、俳句を嗜む人だけのなやみではないのである。
京都の観光地に出没する"なんちゃって舞妓"が見破られるのは、その季節感のない着物と簪・帯留めなどの小物からである。 
  ……というのと、要は同じなんだよね。

一枚づつの紙で、あちこち置く内にばらばらになるよりは、こうして一冊の本にまとめてあったほうが保管は楽。
ちゃんと経験を積んでますな…出版社も。

ISBN:4257037385 大型本 今 市子 朝日ソノラマ ¥3,990
延々と続いている(ように見える)セレクションのうちの一冊。

坂田靖子氏の作品は昔から時々思い出したように買っているので、ダブらないように買うのがけっこー大変かも。
まぁいいけどね。
別にちょっとぐらいダブっても。(元の本は引越しや何やらでどこへ行ったやら…状態だし)

アジア変幻記、ということで、アジアを舞台に摩訶不思議、理屈に合わない仰天話が綴られている。

神さま系、お寺系、と、なんでもござれ。
「新月宵」「石の谷の姫君」「桃の村」「塔にふる雪」など、いかにもアジアン!(つかみ所がないというか、善悪とか結末とか落ちとかをあえてつけないところとか、理不尽なところとか、ちっとも報われないところとか)で面白かった。


ISBN:4267015740 文庫 坂田 靖子 潮出版社 ¥530

バスカビルの魔物

2006年12月22日 読書
ミステリマガジン掲載の、ショート漫画を集めたもの。
その文庫化。

ひっじょーに、面白い!
ミステリ好き、と言うだけ合って、でも、落としどころをわきまえた、こなれた漫画家さんだから、上手い!

ここ(だいありーのーと)のレビューで紹介があったのを見て、「面白そう♪」と食指が動いた一冊……有難うございます♪

太れない女探偵、エンマの「エンマ The スルース」やリレー日本昔話風の「GHOST TALES」などが特に好み♪である。

久々に、全編余すところなく、つつがなく、面白かった〜♪

 と、思える一冊。


ISBN:4150308667 文庫 坂田 靖子 早川書房 ¥651
ナチス・ドイツが支配するヨーロッパの戦場に、アメリカから慰問にやってきたオーケストラの面々。

彼らは理不尽にも、条約を平気で無視する部隊長・シュライヤー大佐の捕虜となり、その処刑を待つだけの身である。

オーケストラだから、老人も女性もいる。
その彼らに、「ワグナー」の演奏を大佐は命ずるのだが、天才指揮者・クーリッジは頑として首を縦に振らない。

ナチスドイツのためになど、誰が演奏をするものか!

その意気はご立派ではある。
が、彼には眼に入らないのだろうか。
年よりも女性も含めるオーケストラ団員の命が風前のともし火であり、彼の態度如何によってすぐにでも処刑は行われると言うことを。

案の定、団員のなかに亀裂が……。

命つなぎ、あるいは、明後日にはここにたどり着くはずのパルチザンの攻撃に一縷の望みを託し、一人でも多くの命を助ける為、彼らには何ができるのか。

そしてまた、冷酷非情に見える大佐の本心はどこにあるのか?

……慰問は確かに大事でしょう。
朝鮮戦争のときの、マリリン・モンローの慰問がどういうものであったか、そしてそれが前線で戦うアメリカの兵士たちの心にどれだけの影響を与えたか、有名です。
でもな〜。
条約があるから、と、のこのこ戦場に出てゆくのは非常に危険だって事。
条約がどうのこうの、非戦闘員なのにどうのこうの…それは後から幾らでも言いくるめられてしまうだろうし、なにより、失った命は還らない。
イラク戦でも、なんでも…とみに最近の戦争では、(非戦闘員の)危機感の薄れと、(軍隊やテロリストなど、戦う者たちの)区別のなさが相まって、死ななくてもいい人間が、まるで水から死にに行っているような事態を招くことが多くなった。
(人質になったボランティアを責めているのではない、私は、決して。あの時かれらを責め続けていた日本国民の精神の異常さが、私は怖いだけだ。)

アラン・シリトー原作。
とあるので、そのうち原作の方も探してみるか…。

オーケストラつながりで、「オーケストラは語る」という小編(エッセイ風)もとても面白かった。
コンサートマスターと指揮者が喧嘩したらどうなるか……
年末のウイン・フィルのコンサートの楽しさ(皆ニコニコしながら指揮棒を振っている)……
面白いなー。

著者の言うとおり、年末に意味もなく「第九」を演奏して(歌って)皆がハッピーになっているのだから、「お盆にはチャイコフスキーの"悲愴"」、「お彼岸には"ツァラストゥラ"」、「エイプリルフールには"新世界"」を意味もなく演奏するのも楽しいかも…。

同じ本に3編収録されている、(たぶん)初期の頃の作品、アモンという美少年(?)(笑)が主役の一連の話は、あたかも竹宮恵子氏の作品を見るようで物珍しかった。


ISBN:4063604934 文庫 Alan Sillitoe コミックス ¥683

サラディンの日

2006年12月21日 読書
頃は十字軍華やかなりし頃。
舞台は中東(つまり、現在のイスラエルとかレバノンとかその辺だ)
登場するのは、十字軍の華・修道騎士団。

主人公のユーグ・ド・モンフォールはフランスの貴族の次男坊である。
ゆえに、家を出て、出家するか、騎士として身を立てるか、選ぶ道はどちらかしかない。

叔父で商人であるジャンに幼い頃からしたがって、遠く中東へも足を踏み入れ、そのまま神に使える騎士となった。
修道士(お坊さん)にして騎士(というなんだか矛盾しない〜?)となり、ムスリムとの戦いに明け暮れる毎日であった。

彼の所属するのは、『ダ・ヴィンチ コード』で一躍有名になった<テンプル騎士団>である。
ヨーロッパの金庫番といわれ、後に異端の汚名を着せられて、拷問・火あぶりと<13日の金曜日>という忌まわしき言葉を生む元と成った大弾圧によって潰滅する騎士団である。
それもこれも、その莫大な財宝に目をつけたフランス国王が教皇を抱きこんでおこした冤罪であると言われている。

ま、とにかく、それは後の話。
我らがユーグが没した随分先の話になる。

聖地を守る騎士団にはほかに、ヨハネ騎士団(聖ヨハネ病院から発展。医療に強い)
チュートン(ドイツ)騎士団(ドイツ語圏の巡礼の保護)

があって、この3騎士団がエルサレム王家の戦力となりキリスト教の力強い守護となっていた。
そう!
驚くべき事に、この時代、エルサレムにはキリスト教の国がちゃぁんとあったのだ!(知らんかったー)(笑)
無理やり立てた国で、王と言っても頼りにならないへなちょこな王様だったけどね。
だからこそ、修道騎士団の存在は大きかったのだ。

俗世の癖が抜けない(美人のオバサンにどきどきする)ユーグ。
同じテンプル騎士団所属の(頭のがちがちに固い、船酔い体質の)ニコラ・ド・クレマンジュ。
ヨハネ騎士団の(流石イタリアン!な)パオロ・アルベルティ。
この三人は決して仲も良くはないのに、何故にか特別に選ばれて、単独で作戦行動をする羽目に。

?イスラム軍に包囲され、ガザに立てこもる市民と○○を救出に
?エルサレムへ向かう英国王・リチャード獅子心王の影からの警護
?オーストリアでとっ捕まって身代金を要求されている英国王・リチャード獅子心王の身代金の警護

などという、普通では出来ない(?)栄誉と任務を3人セットで命令されるのだった…

もしかしなくても、雑用係…?

こんなに苦労して手に入れて守った聖地であったが、キリスト教の支配下では長くはなかったわけである。

騎士団は中東から吐き出され、キプロスに本拠地を構えることになる。
中東を、その聖地を本拠地としていたテンプル騎士団はその根を下ろす場所を求めてヨーロッパ本土へ眼を向け、やがてそれを危機として捕えたフランス王などによって(財宝目当ても大きかったろうが)異端の汚名を背負っての潰滅という、非業の最期を遂げることになるのである。

ISBN:4253176011 文庫 青池 保子 秋田書店 ¥590

北リアス線の天使

2006年12月21日 読書
リアス式海岸といえば、三陸。
そこにはレトロな電車が走っている(らしい)

人は素朴で、鄙びた雰囲気がとてもいい(らしい)

一度は行ってみたいな、東北も。
行ったことないんだよ、私…とほほほほ。

あまりの可愛らしさに「殺人」なんて無粋な題名をつけられなかったという著者。
…で、「天使」か。

今年著書が400冊を越えたと言う驚異の多作作家が、地方の素朴な美しさに魅かれて題名をつけてしまったというこの作品。
母親に廻さねば成らないので、急遽読み始め!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

号100万円という、洋画の大家の絶筆(200号=単純計算で2億か?!)を巡って、狸と狐とももんが(?)が争う(笑)
おっと〜、ここでイタチが乱入か!?

話の構成上仕方がないけど、大金を巡って、女4人がすったもんだ。
騙しあいに日が暮れます。
こえぇぇ〜。

ISBN:4334076459 新書 西村 京太郎 光文社 ¥840
1920-1930年代の話。
だけど、今と変わらない。
いろんな人がいます。

その職業・その暮らし。
今と変わらずに、苦しかったり悩んでいたり哀しかったり…実生活にしろ精神面にしろ、貧しいということは、いつの時代でも哀しいもの。

チェコスロバキアと呼ばれた国の、最高の人気作家はとても深く深く苦悶していたようです。

彼はナチスドイツを揶揄する短編やエッセイを沢山発表していたので、要注意人物になっていた。
そして、チェコにナチスドイツが侵攻したとき(英仏がこの国を見捨てた時)、彼を逮捕に向かったドイツ兵は、大いに落胆する。
なぜならば、一晩中教会にこもったために風邪を引きこみ、それが元で肺炎をおこして亡くなったチャペックの遺体に対面するだけだったからだ。

国を憂える作家。
国を愛すると言うのは、愛国心というのは、ここまでやるということで、ここまでやる気にさせる何かがあるということ。

さて、どこかの国には、それがあるのかな?
非常に疑問です。

とりあえず。
調子に乗って買ったチャペックの本はこれが最後。(要は、たった3冊しか買わなかったのだ)
絶版本が多かったからねー。

でも、今でも愛される作家だそうで、すごいなぁ、作家冥利に尽きるなァと羨ましく思っている。
体は死んでも、その魂は周りの人たちの中で生き続けているなんて。
しかも、声高に愛国心を訴えたり、なにか政治活動をやっていたわけではない、普通の作家なのだから。
(ナチスの脅威に対し、英仏の作家を通じてチェコを見捨てるなと働きかけてはいたようですが、裏切られてしまったし)
静かに語っていても、その魂を感じて同調することが出来れば、自然とこうなると、そういうことでしょう。

仕事に就けない若者達。
いますぐ、この国をこの社会をこの政府を改善できない政治家と思想家と自分達。
今とちっとも変わらない苦悩がここには書かれています。


ISBN:4582760902 単行本(ソフトカバー) Karel Capek 平凡社 ¥1,223
一言で言うなら、面白かった。
すいすい読めた。
いろいろ納得することも多かった。
そして…うへぇ〜と思った。正直なところ。

英国初の映画は、要注意で見なければいけない。
         ということが、これを読んで、良く分かった。

だけど同時に、それが分かるほど私は英語のヒアリングが出来ない。
         ということを、私はちゃんと知っている。

なぁんだ。
だったら、無視してもいいわけだ。

……というのは、英国発(英国製)の映画というのは、俳優がその役割に応じた"階級の発音"を余儀なくされている、という事実があるからだった。

って、これってもう周知のことでした?(知らぬは私ばかりなりって?)

日本でも、方言と言うのはある。
だけど、それは否定的に捕えられない。
小説家は書き言葉だから、方言の存在は"強いて意図しない限り"分からない。
だから、有名な詩人に対してその出自を取り沙汰するような意地悪な言い方(批判ですらない)は生まれない。英国以外では。
その意地悪さと言えば、『すばらしい詩だけれど、本人(作者)が読んだら(下層階級の)訛りで台無しなんでしょうね(ほほほ、と笑い声が入る感じか?)』というようなものである。

日本だったら、『お国ぶりが出ていて"味があるねぇ"』と成るようなところだ。
演歌とか、そうでしょ?
方言を隠すどころか、どこへ行っても大きな声で喋り捲る(自分の方言こそが共通語と信じて疑わない)関西人なんか、英国人には信じられない存在であろう(笑)
え?信じられないのは英国人だけではない?
そうかなぁ〜。

絵黒人は、話の筋・役回りと、その俳優の話す言葉の"アクセントと話し方"をじっくりと吟味してそこんところでも隠された面白さを味わうと言う。
だから、「マイ・フェア・レディ」とか、ディケンズの「オリヴァー!」や「大いなる遺産」、ほかに「レベッカ」や「ジェイン・エア」「高慢と偏見」(←今年キーラ・ナイトレイ;パイレーツ・オブ・カリビアンのヒロイン:主演で映画化された)「ブリジット・ジョーンズの日記」「メアリー・ポピンズ」、「コレクター」や「時計仕掛けのオレンジ」でさえ、そういうことを考え楽しむ対象になる。

すべては"階級差"による、言葉使いやアクセントから発する ⇒ 登場人物の立場の違い ⇒ そこに隠された内心の苦悶・表面には出てこない思いなど が、分かる。
普通に科白を聞くよりも「彼女は○○だから、▼▼な科白や※※な態度が出てしまうのだ」と理解できてしまうのだそうだ。

そこまで考えて、映画は作られているので、同じ原作でも英国発とアメリカ発ではかなり違う映画になってしまうものらしい。
アメリカに差別意識がないとは言えないが、英国ほどに階級に囚われてない。
逆に、映画やテレビにおいては、各人種(白人・黒人・黄色人など。白人でもヒスパニックとか細かい分類もあるようだし)を均等に配するような配慮が求められている。
だから、著者が存命である場合などは、アメリカ製の映画をさして、「これはもう、私の小説ではない」というまでに憤りを表明する作者もいるようである。

以上のような事情から、この本の題名である「不機嫌な…」が導かれる。
彼女はジュリー・アンドリュースのデビュー作品で、役柄はナニーである。
ナニーというのは、子守女性のことで、アッパーミドル(中の上)階級の家庭に雇われる、ロウアーミドル(中の下)或いはワーキングクラス(下)階級の女性達の就職先である。
子守として、子供たちの躾を任されるから、さぞかしその権威は轟くもの、と思うのは間違いで、あくまでも、自分よりも格上の人間を相手にしていると言う気持ちは離れず、子供たちも彼女をしたいつつも、彼女が自分達よりも格下の階級であることを認識する。
そのへんの不安定さ、そして親しくなっても所詮は階級差があるということや目の前に別離が待っていることなどが、彼女、メアリーポピンズをして不機嫌にさせる原因なのである。
たとえば、屋根の上で唄って踊ってなどという教育上悪いことは絶対しないし、子供相手でも厳格な態度をとる。
対等ではないのだから、彼女が自分を自分たらしめる威厳は、厳格な乳母と言う形でしか表わすことは出来ない。
その態度は最後のそして唯一の彼女の砦でもあるのだろう、と私は思う。
そしてアッパーミドル、その上のアッパークラス(貴族階級)は、子供のころから"階級差"について深い考察が出来る人間に育ってゆく、という按配なのだ。

なんだかねー。
そんなのなくなってもいいだろう、と思うのは、イ黒人だからだろう。
伝統、というには、あまりに…ちょっと、と思うのも、きっと私が異国人だからだ。

そういうところに、その、いかにも英国的な"階級差"が出ているか、それを映像で説明されているのがこの本である。

だからとっても分かり易い。
そして、自分が誤解していたことも分かった。

まずは、「コレクター」という映画。
見たことはないが、家人が見て、ショックを受けてその内容の説明を聞いている映画である。
要は、気に入った女性を攫って来て閉じ込めて死なせてしまうという男の物語である。
それがおたくどころではなく…まるで蝶の収集をするかのようであるのが気持ち悪い。
凝りもせずに、次の女性を狙っているらしい終わり方も…。
で、攫って来ても手も触れようとしない、この男。
彼女が好きで結ばれたいけれど、「階級(クラス)が違うから、いっしょにいようと思えばこうするしかない」などという。
階級差が、この20世紀の時代においても、愛よりも(いや、この場合は合いはないけど)苦しみよりも重い、という感覚、その事実。
それをこの映画はあらわさねばならないのだそうだ。

そうか…キモチワル〜イ、だけではダメだったのだ。
知らなかったよ…。

そして、「タイム・マシン」という映画。
単なる娯楽映画だと思っていたのだが…なにしろ、あの、H・G。ウエルズの原作だし。(偏見?)

とある事情で未来に行き着いた主人公(男性)は、そこで二つの種族に分かれた未来の人間像を見る。
それは間違いなく"階級"によって分かたれた人間の姿である。
…というわけで、娯楽SFだとばかり思っていた物語ですら、この英国の病を大きなテーマとしてしょっているのだ。

そんな風に見ねばならぬのか。
未見の「時計仕掛けの…」はかなり暴力的で眼をそむけるシーンのある映画だそうだが、ここにも言葉使いで"階級差"を(一部の人、英国人でないと分からなくても)強調しているという。
コクニーにかわる、それらしき"言葉"を、著者はわざわざ創り上げたのだから。

面白いのは、子供向け大人気の「ハリー・ポッター」シリーズである。
あの物語では、純潔の魔法使い・マグルと言う人間の血が入った魔法使い(混血と罵られる)の"階級差"がもろに出てくる。
ところが、俳優の話す言葉は、といえば。
純潔である"赤毛の一族"ロン・ウイズリーは、ロウアー・ミドルの言葉で話す。
逆に、"混血"とことあるごとに言われるハーマイオニー・グレンジャーは、美しいアッパークラスの言葉を使う。
その矛盾…も、また面白がるところなのだそうだ。
&階級差を取り入れない映画、にしようとして、逆に悪目立ち(?)しているか。

難しいよ…というか、面倒な。

でもね。
階級(クラス)が上の男が、下の階級から女性を迎えるのは、別に構わない、というのが、英国社会のおおらかさではなく、"救ってやっている"みたいな匂いがプンプンするのがなんだか嫌だなー。

というか。
そういうことをいちいち吟味しながら映画は楽しめない。
面倒くさい。
せいぜい私らが出来るのは(楽しむのは)、下手な関西弁・京都弁をのうのうと使っている俳優を「下手くそ、勉強しなおせ」とやじるか、影でくすくす笑うぐらいだもん。
え?
充分意地が悪いですか?
勿論。
そうでしょうとも!

でも(特に)京都人は、京都人とよそさん、を分けているぐらいで、階級差なんて思ってもいません。
自分が上位だなんて思ってもいません。
ハイ。

ISBN:4582852734 新書 新井 潤美 平凡社 ¥798
表紙の写真が美しいので、つい……。

     つい……つい(笑)、ね。

数年前(と言ってもほとんど10年ぐらい前)に行った。
初めて行った。
それきり行ってない。
一度きりの国で町なんだけど。

やはり思いで深かった。
印象深かった。

忘れられないみたい。

モン・サン・ミシェルは、聖ミカエルの聖堂。
英国との百年の戦いを、屈服せずに戦い抜いた要塞でもある。

世界遺産になって。景色もとても美しく、自然の仕組みも驚かれて、よくテレビにも取り上げられている。
推理小説にも(アーロン・エルキンズ)取り上げられている。

シャンパーニュやコートダジュールなど、本誌で取り上げられている南フランスは知らないし行ったこともないけれど、それで雄いい。
特集のひとつ、モン・サン・ミシェルを読むだけで、見るだけで充分と思わせる魅力があった。

い〜な〜。
夜のモン・サン・ミシェル…。
私も一泊したかったな〜。
頭の黒い羊を食べたかったな〜。(近くでいっぱい放牧している)
エイのムニエルは美味しかったな〜。
名物のオムレツより美味しかったな〜。

そんな思いで頭の中がぐるぐるしながら、私は読むのだ。

ISBN:4777906442 大型本 〓出版社 ¥1,260
「柴田哲孝著・下山事件最後の証言」
「諸永裕司著・葬られた夏」
そしてこの「森達也著・下山事件(シモヤマ・ケース)」

この三冊を書いた三者は、いっときともに取材し調査し、協力した人たちである。
しかるに、同じ事件を扱った本を、それぞれが描いた。
勿論、重複は免れない。

ともに手を取り合って困難な調査を行ったとは言え、夫々の主張すべきことも微妙に違っているだろうから、それぞれが違う本を書くこともありえるだろう。
だが。

捏造とか。
盗用とか。
どっちの肩を持つとか(3人いると2対1になるという不滅の法則か?)(笑)

なんだかなー。

下山事件について言えば、当時GHQの統制下にあって共産(組合)勢力が強まっていた国鉄組織に対し、何万人という首切り通告をしなくてはならなかったのが、国鉄の辛い立場であった。
国鉄総裁の下山氏が拉致監禁殺害されたのが、その主犯が共産主義勢力であるとすれば、国民の意識は反共産に流れ、マスコミはそれをあおり、総じて国家すべての民意と言う形で"反響"は出来上がる。
しからば、国鉄職員雄首切り・組合の弱体化も進められるというものだ。

…というのがおおまかな理由で(実はGHQ内部の抗争とか対北朝鮮の活動とか日米安保とか政治的必要性とか、まあいろいろあったのだけど)、この事件はろくろく捜査もしないうちにあっちからこっちから圧力が加わり、証人は姿を消し、言ってもいない証言が新聞に載り、うやむやのうちに決着をつけられている。

こもあとにも、列車が暴走し使者を出した松川事件なども続いて起こり、協賛勢力はあっというまに弱まったと言う。

…で、映像屋である著者がその謎を追いたい!というウイルスに感染してしまったところから話は始まるのだが。

真相を追いかけてゆく著者とその仲間。
事件後数十年を経て、証言はあやふやに、証言者は鬼籍に入って、ことはどんどん難解になってゆく。

"金にならない"取材やテレビの企画は流されかけ、やがて裏切られ、著者は自分が追い求めてきたものが何であったのか、見失いさえするのだった。

下山事件はとうに終結を見た事件であるかのように思える。
ぞして、その後のアメリカとの蜜月時代・朝鮮戦争が日本の好景気を呼び、国民総生産世界一の経済大国に、今の歌かな日本にのし上がるルートを、まさしく線路を敷いたことは確かだ。
だが…。
下山総裁の死が、だから、仕方がなかったなんて、誰がそんなことをいえる?
これは、とても恐ろしいことである。
思考が麻痺している、人間としての感情が凍り付いているとしか思えない。

しかし日本国民が、日本政府が、なんどもなんども同じ過ちを繰り返して、それでも尚、また、同じ過ちに足を踏み入れようとする民族であることは、私たち自身が良く分かっているのだから、今からまた同じ過ちを繰り返さないとはとても言えない。

そう、今から。
私達が生きてゆく未来に向かって、何度でも繰り返し得る事なのだと、著者はそういいたいのだろうか。

なんて恐ろしい。
事件自信の無残さ残酷さもさりながら、それ以上に、人間の欲望の恐ろしさを、どろどろとした深淵の底を見せられたような嫌な気分になった。

下山総裁の誘拐・拷問・殺害に関与した企業など、今でも「あ!」と思う名前が出てくるのがなんともショックだけれど…。
歴史は続いている。
歴史は繋がっている。
まさしくその通り、それを身をもって感じた瞬間である。

「解決」はない。
「自分で考え」なさい。

そういう本は、とってもしんどい。
     
     でも、有難い……

ISBN:4101300712 文庫 森 達也 新潮社 ¥620

< 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 >

 

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

日記内を検索