内容は、7つの物語から成っている。

小豆洗い(あずきあらい)  

…小豆とごうか、人とって食おうか。
私もこの歌は知っていた。
しかし、後ろに”あ。しゃりしゃりしゃりしゃり…。”と、なんだかコメディタッチになるうただなぁと思っていたのだが。
確執から起こった殺人事件の被害者が、小豆洗いという妖怪になって姿を現したのであるとは、夢にも思わず。

帷子辻(かたびらがつじ)

…京都市内にある地名で、"かたびらのつじ"と読む。
檀林皇后の逸話が残る、ぐらいは知っていたが。
そうそう。帷子って、経帷子のことなんだよね。
京福沿線には、昔語りにちなんだ地名が多く残っているので面白い。

後の物語。
白蔵主・舞首・芝右衛門狸・塩の長司・柳女は初耳である。

あるときは鳥追い女、あるときは山猫廻し(傀儡師:クグツ師?)おぎんの言い回しが、粋な江戸女っぽくて楽しい。
メインの登場人物では唯一の女性だしな…。

あとは胡散臭い男連中である。
やはり必殺…の世界か…。

巷説百物語

2004年6月27日 読書
よくわからない夢枕氏を無事読了して、判りやすい京極氏の「百物語」へうつった。

今昔物語 + 必殺仕置き人 + 日本むかしばなし
  
のような…というのが私の感想である。

はっきりしていて面白い。

狸って50年も生きるのかなぁ……。


ISBN:4043620020 文庫 京極 夏彦 角川書店 2003/06 ¥660

朔太郎

2004年6月26日 読書
一件落着…なのだろうね。

現代社会であれば、三面記事を賑わすような事件を、小説家が夢を描くとこうなる。

後は時代と登場人物で軽く味付けして、郷愁と言う器にもって出す。
そんなイメージかな。

悩む。

萩原朔太郎という詩人に対する理解を、深めた、といっていいのかどうか。
作者のイメージが、事実以上に膨らんでいるであろうことをも考えに入れながら。
でも煙の無いところに火は云々というからなぁとか考えて。

さして遠くは無い過去(歴史)を、研究の対象として取り上げるのは困難を伴う。

同様に、そう遠くはない過去の、実在の人物を、小説に取り上げるのは非常に難しい。

芸術家の死

2004年6月25日 読書
「腐りゆく」ものは何であるのか…まだちょっと不明。

最初は簡単に死体だ、と思ったんだが、そんなに単純ではないらしい。どうやら。(流石、夢枕氏と言うべきか)

おそよ芸術家と言うのは、観念の中に生きている生き物なので、長生きするのは難しいのだろうか。
純粋であればあるだけ、早く死にたがり。
今の命を手放したがるように見える。

明治や大正の頃、日本の文学檀に名を列ねていた〜そして国語の教科書などに出てきて我々がテストのためにその名前を覚えた、〜詩人や画家や小説家などは、非常に死にたがっていたように見える。

ふたりで心中

ひとりで自殺

俗世にまみれている凡人は、現世欲がつよいせいか、死にたがらない。
ただし、凡人が芸術性皆無、というわけではないだろう。
凡人も想像し、憧憬し、夢を見て望み、実現へと努力する。

ただその日を生きている動物とは違う。
ただその日を生きているだけの存在ならば、これもまた長くは生きられない。

凡人も夢を見るのだ。

一方に芸術家を吊り下げたうやじろべえ。
ちょうどそのバランスが取れたときに中央にいるのが平々凡々人である我々なのではないか。


頭蓋骨が土で満たされた、土葬の死体……だから、その死体は脳ではなく、詰まった土でその存在を考えている。
その表現が、妙に頭に残る物語である。

それはなんとなく、からからと乾いた感じがして、腐る死体なんぞより、はるかに好印象なのであった。
腐るのはいや。
生理的にいや。
やっぱりカタコンベより火葬が良い。
出なけりゃいっそミイラとか。
からからと……。

腐りゆく天使

2004年6月24日 読書
怪しい夢枕 獏氏の作品。

小説?
詩?

いつぞやの「螺旋」みたいに難解で崇高なテェマとやらに走ってなければ良いのだが。

ちなみに「雷鳴の中でも」(J・D・カ−著)はとっとと読めてしまった。
作者の時代性か、物語の舞台の時代性か。
登場人物が入り混じって誰が誰やら混乱してしまったのは、私が急いて読んだせいなのか。
それともこういう作家なのか。
それとも作品が……(コホン)

科白が多いのが問題かも。
それも次から次へと畳み掛けるような。
人に最後までしゃべらせない人間ばっか。
で、言葉を中断させられた人間が「キーッツ」ってなって、それが順繰りに広がってゆくようなイメージがある。
年齢のわりにコドモ…ばっかり?

神経症が事故・犯罪に大きなウエイトを占めている時代のお話であった。

さてさて。
本題は「腐り行く天使」である。
天使といいつつ、人間の死体がどんどん腐ってます。
ただいま現在、せっせと腐っております。
アヤシイ物語…。

ISBN:4167528126 文庫 夢枕 獏 文芸春秋 2004/05 ¥710

雷鳴の中でも

2004年6月23日 読書
ジョン・ディクスン・カー著。
思うんだけど、翻訳本のとき、訳者の名前しか出ないから、著者をこっちで書かないと、あたかも日本人の作品のように思える。
いや。
書くほう(私)はいいんだけど、誰かが興味をもって検索するときやりにくかろうなぁ…と思うんだけど?

「仮面舞踏会」はそこそこ意外な犯人像で、面白く読めた。
メリハリがあるからか。
この作者、芸術・文芸面で著名人を並べるのが好きなのは判ったが…わけわかんなくなりそうだ。
というか、こっちの視点が変なところへそれてしまう。
おかしなところを気にするようになってしまう。
自分の知らない端役が出るたびに、「この人はどんな有名人なんだ?!」とビビってしまう(自分が知らないのを無知ゆえのものと考えて焦るのだ)のであった。

だから、ほどほどにしてくれ〜。
それともこれは読者の推理を妨害する罠なのだろうか。

で、「仮面舞踏会」につづき、次の作品である。
今度は第二次世界大戦後のスイスが舞台。
カーの作品では歴史がかったミステリーが好きなのでちょっと期待する。
ヒトラーの、例の山荘"鷹の巣城"での殺人事件である。
当時底に滞在(招待)された英国人以外、(当たり前だが)ヒトラー以下、証人は皆この世にいないので、さて事件をどのように解くのか。
半分以上読んでいるのに、いまだに検討がつかない…のが楽しみ。
さて、どのように料理をしているのか。

ISBN:415070354X 文庫 永来 重明 早川書房 1979/12 ¥735
「仮面舞踏会」
まるでボケと突っ込みのようなテンポのよい語り口調が結構気に入った。
午後のカフェの描写…
互いを見つめあい、テーブルのうえのコーヒーに気づかずにいる若いカップル、
コーヒーを見つめ、互いに気づかずにいる老いたカップル、
ウイットの効いた対象的な描写が心地よい。

主役の相棒のフランス人(男性)の、料理にかける熱意には流石フランス人、と思わないでもない。
また、この人物のみならず、例えばパリ警察の警視あたりも、自分の奥方がどのように料理をしているか、その方法を他人にきちんと説明できるのである。
これでは、奥方も手が抜けないではないか。

あと、英国人のマダム(?)が、料理人だけは英国人を雇わないと決めている…なんて描写も、我々のフランス人観・英国人観を裏打ちしてくれるようで笑える。

外国小説に似つかわしくなく、お酒の描写よりも食べ物の描写に力を注いでいるあたり、この小説の面白い一面であろう。

仮面舞踏会

2004年6月20日 読書
ウォルター・サタスウエイト著。

第一次大戦後、数年たったパリを舞台に、ピンカートン探偵社のフィル・ボーモントが活躍する…予定。(まだ読み始めだからね…)

「名探偵登場」でデビューを果たした"名探偵もの"のシリーズらしい。

時代も興味津々。
いまだに19世紀の匂いを残す古きよきパリ。

登場人物(つまり容疑者たち)も興味津々。
なかにはアーネスト・ヘミングウェイなんて"新聞記者"も登場するのだから。
(まさか真犯人ってことは無いだろうけど…名誉毀損になりかねないし)
ピンカートン探偵社、というだけで推理もの好きな人には"にやり"なのに、新しい時代へと大転換を果たす時代背景を味付けにされれば、もう笑いが…。
そんな小説は美味に決まっている…ハズ。

18歳の若者が常に持ち歩いて離さないボードレールの「悪の華」は、今、併行読みしている「衝動買い日記」(鹿島茂著)にも面白い紹介があり、偶然の一致に驚きつつ笑いを禁じえない。

実際に行った所や知っている名前が出てくるのは、それが人物でも地名でもレストランでも、なんとなく嬉しいものである。

ISBN:4488192033 文庫 大友 香奈子 東京創元社 2004/03/26 ¥1,134

きもの365日

2004年6月19日 読書
群ようこ、という作家の作品を過去に読んだのは二冊のみ。
矢張りエッセイであった。
それはご自分の、青春時代のこと、家族のことなどを語る、抱腹絶倒…までは行かないものの、結構笑える内容だった。
今回、友人からお借りしたのはこれ。

365日きもの日記。
頑張って、毎日着物を着て暮らそう、という作者の意気込みと、着物をどのように工夫してきるか、仕事をしながらリラックスしながら着物と過ごすか…
そんなこんなの独り言を綴っている。

着物って、台所仕事と同じで、"どんどん新しいのを買ってこなすのは誰でも出来る"ということらしい。
"あるもので工夫する"ことが大変であり、技であり、何よりも着物を着る上での"王道"であるようだ。

私は着物を着ないので(というかお腹を手術して以来、締めるものは駄目なので)専門用語の羅列には舌を巻いたり舌を打ったりではあるが、そういう"心意気"のようなものにはなんとなく共感するし、うなづきもできる。

着物を着ない私も、着物の話を聞くのは好きなので、着物を着なくても十分楽しめる本であろう。
専門用語は無理に拾おうとせず、雰囲気だけ掴んで流し読みすればよいと思う。
十分状況は理解できる。

あ、そうか。
着るよ、着物。
手術直後、特にお腹の手術の後は、着物(浴衣)がベストなんである。
処置をするのに何かと便利なんで。
前をぱっと開けるだけだからね。寝たきりの人にはこれが一番。
そういう意味なら嫌ってほど着たわな〜。

追伸

とかいいつつ…後半部分は飛ばし読みしました。
着物や小物の写真などは十分堪能したけれど、専門的な細かい描写は…こんがらがってきてしまったので。ああ残念。でも毎日着物を着る!そう決めて頑張った著者に拍手。それほど力んで着るものではなく、好きで着ているのだと彼女は言うが…いやいやコンジョー要るでしょう。
「洋服・着物に関わらず、おしゃれは我慢から始まる」と言う言葉は至言だと思う。


ISBN:4087477002 文庫 群 ようこ 集英社 2004/05 ¥880
フルメタルパニックと銘打たれた一連のシリーズもの。
フルメタル…また○ンダムか?と思ったのも最初のうち。

ナンセンス・大爆笑小説!!
笑えます!
よ〜ここまで脱線させられるもんやね〜と、平和国家・日本の常識に真っ向から挑む男・ソースケくんを主役に、ややフットワークの軽い(すぐに手が出る足が出る)美少女・かなめちゃんとのボケと突っ込みの尽きることの無いエンターテインメントに仕上がっております。
(なんのこっちゃわかるまい…)

うんうん最初はね、
「サンダーバード?」
かと思ったもんです。
主人公が所属する、その秘密の組織のことですが。

燃料とか食料とか、薪水補給はどうしているんだろう?
とか、
乗組員の給料は誰がどうやって払っているんだろう?
とか、
随分ハードな仕事だけれど、残業手当や有給休暇を始め、福利厚生はどうなっているんだろう?
とか、

……しょうも無い細かいことばかりが気になるのは、世知辛い世の中を生きている大人の性であるので許してください。
そういえば、サンダーバードはいい年をした若い男がごろごろと南国のバカンス気分たっぷりの島にたむろしていたりするもんだから、おせっかいな(父上の)友人なんかは「いい若いもんが!…なんなら仕事を世話してやろうか?」なんて申し出てましたなぁ…。

しかも。
先にシリアスな(?)「戦うボーイ・ミーツ・ガール」を読んでいたので、そのギャップに唖然・呆然そして大爆笑・
うん。どっちから読んでもこのギャップは大当たり!!
楽しめること間違いなし!

長編シリアスも良かったけれど、個人的には短編お笑いを推したい。
ただし、シリアスを読んだあとにチャレンジされるのがベストであろう。

主役は戦場で働く"戦士"なわけで、日本の社会、しかも高校生として過ごす社会にすべからく激戦地なみの反応を示してしまうわけで、そのギャップがこの小説の笑いどころなのだ。
だが、だからといって、平和ボケした日本を、決して揶揄したり戦争賛美をしているわけではないんで念のため。

そこんとこ、実に上手に描いてます。
ま、何事も受け取り手の資質の問題ではあるけどね。

そこまでやるかぁ〜?!
主役・ソースケくんの戦場ボケぶりに、読むほどに進むほどに思わず裏手で突っ込んでいる自分を発見しているのでありました。

ISBN:4829128577 文庫 賀東 招二 富士見書房 1998/12 ¥546
オタク要素の一杯詰まった娯楽小説が、だんだんマジになってきた…
ストーリーで読ませ、登場人物の魅力で読ませる。
まさかこういう展開になるとわ。
(挿絵が挿絵だけにギャップがぁ〜)

……ま、相変わらずの駄洒落攻勢には、時折溜息が出てしまうけれどね。

そうこうするうちに読めてしまったので、次は同出版社の同文庫、「戦う・ボーイ・ミーツ・ガール」へ。

ISBN:4829114428 文庫 豪屋 大介 富士見書房 2002/07 ¥609
唐突だが、
ジオン…というか、ガンダムが流行りなのだろうか?
違う小説でやたらとその名前を拾うのだが。

私なんぞはファーストガンダム世代である、というらしい。
そして、その後のガンダムはまったく関知していない。

今放送中のガンダム○作目が、ほどほどの人気を得ているらしいとは風の噂で聞いているが、それがまた熱を再燃させたとでも言うのだろうか?

そういうオタクな世界に迷い込んだ(様にも思える)主人公A君。
彼の活躍をせっせと追っている。
ジョーク何だかマジなんだか、その境目のはっきりしない小説なので、油断は禁物である。
(冗談だと思っていたら、マジに考証し始めたりで、何度も驚かされてしまうのだった)

ちなみに、「勢い(だけ?)で作る」同人誌って…ホント大変なのねぇ〜(経験なし)とつくづく思い知った次第である。

ISBN:4829114304 文庫 豪屋 大介 富士見書房 2002/05 ¥651

陰陽師生成り姫

2004年6月15日 読書
映画の宣伝が帯についてる分厚いめの一冊である。
作者の意気込みが、そこはかとなく感じられたりして。

今まで読んできたストーリーにいささかかぶっている話だが、そこは見て見ぬふり。
大人である。

前に書かれていた短編「鉄輪」の著編版。

安倍晴明の相方、源博雅の悲恋物語。
鈍なようでいて、さり気に物事の本質をついてくる三位の平安貴族様には晴明も「本当に」は勝てないらしい。
嫉妬で醜く変化した女に対し、博雅はあくまでもいとおしいと言う。
すべてをひっくるめて愛するという。
晴明の科白ではないが、「いい男」である。
良い話である。

神も鬼も、すべて人の心から生まれる……
まさしく。
思うゆえに有るのである。命も姿もなにもかも。

とりあえず、シリーズはここで終わりらしい。
ので、「A君(17)の戦争」の続編に移ることにする。

ISBN:4167528096 文庫 夢枕 獏 文芸春秋 2003/07 ¥610

陰陽師 鳳凰ノ巻

2004年6月14日 読書
濡れ縁で、背中を柱に預けて、丸い茣蓙(今で言う座布団)に座り込んで、ぼうぼうと草花の茂る庭を眺めつつ酒を呑み、焼いた小魚などを"しがむ"。

…安倍晴明と源博雅の毎度毎度の登場シーンである。
お互いに何も言わず、機嫌を伺うこともなく、黙ったままで時間を過ごすことができるのは素晴らしいことだ。

…しかし。
酒の肴がもう少しどうにかならんか、平安貴族。
食事は日に2回だったという話も聞いているが、本当に食べるものに関しては、気の毒である。
長い人類の歴史の中で、最初で最後ではないかと思うほどのこの飽食の時代に生きているから、私にはそう思えてしまうのかもしれないが。

お酒も冷やだし。

敵役の芦屋道満がチョコチョコと顔を出しはじめた。
が、やっていることが可愛らしい。(いや、人の命に関わる勝負をけしかけてくるんだけどね…)
それに付き合う晴明は、やはり面倒見が良い。

男に捨てられ、恨みにうらんだ"鉄輪"風の物語が多くなってきた。
心せよ、男性諸君!

…女は祟るよ。

ISBN:416752807X 文庫 夢枕 獏 文芸春秋 2002/10 ¥470
物語の端々に、今昔物語からの引用が多々見られる。
「昔話」の面白味を土台に、夢枕獏の陰陽師の物語が展開する…わけで、非常にとっつきやすい小説となっている。
短編なのも良い。
だらだらと大河ドラマ風にやられても間延びするばかりで面白さは激減するだろうから。

平安時代の京の都で活躍する安倍晴明の物語であるから、舞台は京。
メインは京。
それも今と比較すると、市内中心部のみ。
ぐっと小規模に縮小される。
現状ですら小さな田舎であるのに。
もっと小さい…。

それと。
現在の御所は昔の御所とは位置が違う。
昔はもっと西よりで、京都市の地図を見ていただければよく分かると思うが、都のど真ん中を走る朱雀大路…これが随分西よりにあることに気づくと思う。
もともとはど真ん中だったのよ。
そういえば、龍が棲む神泉園も西よりに…と思わないでもないハズだ。

余談だけれど、私の母校(公立高校)は、そのど真ん中の大路の名前を冠していた。
他の四神、玄武・白虎・青龍の名前を冠した高校が存在しないことを考えると、なんで朱雀だけ…と思ったりもするのだが、まあ、雅やかでそれはそれでよいかもしれないと今頃になって思っている。
当時は嫌だった。何が嫌って、読みづらい・発音しづらい・聞き取りにくい。
この名前、高校名としては「すじゃく」ではなく、「すざく」って読むんである。
だが、世間一般には「すじゃく」なんで「すざく」というと「はぁ?」とか言われたものである。
でもって、漢字にすると、「なんて読むんですか?」と。
すざく・しゅざく・しゅじゃく……好き勝手読むよな、皆。

陰陽師ばやりの昨今では、こんな漢字ぐらい読めて当然で、あたふたする人もいるまいが、当時は、簡単な癖に使いづらい漢字であった。
当時の流行り、というか我々高校生の憧れは、紫野(むらさきの)、とか、鴨沂(おうき)という名前であった。(どちらも公立高校)
きっと画数の多い漢字のほうが、賢そうに思えたのであろう。


京の町を闊歩する陰陽師(晴明)と武士貴族(博雅)。
怪かしが、あちらの屋敷、こちらの荒れ家、向こうの辻、そこの橋、と現れては消え消えては現れる…百鬼夜行の京の都はもう慣れたが、具体的地名が出てくるたびに、現状の風景を思い浮かべてしまうのが困り者。
京都の地名は交差する通り名が二つ出てくれば分かるので、今のどこら辺に当たるかは、瞬時に分かってしまう。

ああ、あのコンビニの処か、この百鬼夜行が出る場所は。

おお、通いのレストランのある場所やん、この大入道が歩いてるん。

一条戻り橋…ああ、あのコンクリートで固められた堀川の。そういや、こないだおばちゃんが柴犬の散歩をしていたな。

…うちの斜めむかいやん、これ、この妖怪屋敷…。

知りすぎるということは、ムードぶち壊しなんである。

ISBN:4167528053 文庫 夢枕 獏 文芸春秋 2000/11 ¥500

マ王復活!

2004年6月10日 読書
すぐに湧いてくるところがコワイ…古書店で調達されるマ王さま。

いや調子よくどんどんどんどん読めるなぁ。
気持ちよいぐらいに進む。
一定数の人員を超えたら、さり気に場外退場…、そうして登場人物を増やしてゆく作者の手際のよさに脱帽。

一度に沢山の登場人物が出てきても、目移りばかりして、誰が誰だか分からなくなるからね。

全編駄洒落でどこまで突き進むか、進めるか!?
巻を増すごとに楽しみな小説である。

ただこの物語の中では、"ただ"の人間も神殿の威光(力)や法力とやらで魔力に対抗できるし、数十年前の戦争では人間に負けそ〜になったと言うし、魔族って、実は無駄に顔が良くて長命なだけがとりえの存在なんだろうか?
などと最近思うようになってきた。

話は変わるけれど、
「雪が降」ってた大国の、戦うシープがかわいかったデス。はい。
どっちも怪しのものである。

マ王さまは、順調にぼけと突っ込みに磨きをかけながら爆笑…否、爆走中である。
3巻ほども読み来たった頃には、どこかで息切れするんじゃなかろーかと心配もしたのだが、まったくそんな気配も無い。
おまけにだんだんシリアス面も覗かせて、旨い展開に思わずこの小説は"あたり"とほくそえんでしまった。
止らないトルコ行進曲……これは主人公ではなく、多分に作者のことを言っているのだろうと推察する。

「雪が降」ったところで、在庫が切れた。何分古本屋から調達してくるとのことで、苦情も言えぬ。
仕方が無いので、純正日本ものへ切り替える。

その弐は「飛天ノ巻」
晴明ですら救ってやれない(手の下しようの無い)小野小町と深草の少将のお話は、背筋が寒くなる。
山科区にある小町ゆかりの随心院には、小町の化粧井戸、というものが残っている。
こ汚いちっぽけな井戸(跡)ではあるが、この二人の物語はロマンティックな悲恋として語られる以外は、たいてい女のほうが酷い目にあうという結論の物語が多いのである。

99日通って死んじゃった少将の無念を、今に至るまで千年の長きに渉って、生き残った時代時代の男たちが肩代わりでもしてやっているつもりなのか。

それとも嘗てあの横溝正史がそういわれていたように、恋しい気持ちが募りすぎて、あるいは手ひどく"美人"に振られたのが生涯消えぬ痛手にでもなったのか、美しい女に対する激しい憎しみに変わってしまったのであろうか…

男という生き物もあわれなものである。

さて。
この陰陽師シリーズは、短編集なので、非常に読みやすい。
聞くところによると、作者の夢枕獏と言う人は、出来上がった本の活字の並びにまで気を回す人だそうで、"見た目"が読者に与える効果も計算しているのだという。

文字で妖怪の絵が……浮かんでくる、なんてこと、あるわけ無いか。
地元・京都の随分と古い写真が見られるだろうという期待で、少々お高いとは感じながらも購入した一冊。

確かに古いわ、こりゃ。
資料映像をお届けします…のノリだけど、写真に負けないぐらい文章が多いのも「すごい」一冊だったし。

大体京都人は新らしもん好きである。

千年の古都、というと、もんの凄いへんこ(がんこ)で頭の古い連中ばかりが集まっているように思われるかもしれないけれど、それは大きな誤解なのである。

新しいものは、
とりあえず、手に入れてみたい。
触ってみたい。
使ってみたい。
試してみたい。
…簡単に言えば、流行に弱いのである。
否、違った。
流行になる以前に目をつけちゃうのね。

小学校もインクラインも路面電車も……まあいろいろと"京都が最初"ってものは山ほどあるのだった。
この本でも、小学校や中学校の集合写真がやたら目立つ。
勿論個人的な写真(家族写真とか)も多い。

カメラが貴重なはずの時代にも、そこらのおっちゃんがカメラを手に入れて、近所のおねーさんとかお店の小僧さんとかを撮影している。
カメラは勿論フィルムだって貴重なのだろうに……。
なんてミーハーなんだ!京都人。

市内に残る沢山の"初物"は、天皇を東京に移しちゃったことで引け目を感じた明治政府が、京都に"だけ"特別予算をぱっぱぱっぱと出してくれたお陰である、ともいえるか。

革新的、といわれる理由。
昭和の中ごろ、20年以上も革新(共産党)府政が続いたことも、今は忘れられちゃっているかもしれないけれどね。
当時の公立高校の生徒は、簡易"憲法手帳"とか持ってたのだった。
京都府のスローガンが、「憲法を暮らしの中に」
高校生が政治や憲法のことについてマジでガンガン論争していた。今考えると凄い。

一方、幕末の長州びいきは、彼らが落とすお金の多さが理由だとも言われている…"ようわからん"のが京都人である。

ISBN:4473031497 単行本 京都映像資料研究会 淡交社 2004/02 ¥2,940
むむむうぅ……。
折角の山田章博画伯(笑)の絵だというのに、画像が無いとは…残念無念。

同名(同テーマ)の小説やらコミックスやらアニメ映画やら、賑やかしいな作品である。
というのが、私の第一印象。
このコミックスを読む動機も、山田画伯のファンであるが故のこと。それ以上でも以下でもない。

魔女に魔王(?)に怪物に妖魔に妖精に精霊に…神官&戦士&魔法使いを含む人間たち、とよりどりみどりの登場人物が出てくる作品である。
実にバラエティに富んでいる。

ストーリーとしては、
世界制服を企む悪役と、それによって世界に出現させられた悪魔アーンド妖魔&怪物のみなさま。
…が、あちこちで色々と悪事をなされるものだから、反発勢力として人間側の微々たる反撃が始まり、そこに妖魔や妖精や精霊が入り混じっての大混戦になるようだ。

ようだ、というのは、まだこのコミックスで1巻と少々しか読んでいないため。
小説は読んだことが無いし、アニメ映画は導入部みたいだったしなにより話がどうも違うようだ。
従って「ロードス島戦記」と言う名で、複数の話があるのだろうと推測する次第である。

その山田画伯であるが…線と白黒のコントラストでイラスト的な絵を描かれるため、コマによってはなにがなんやらわかりません、という漫画家にあるまじき状況に陥る(笑)
もともとイラストレーターだから、仕方が無いといえば仕方が無いのだが、仮にもそれでお金を稼ぐのであれば、そうも言ってはおれまい。
ご本人もそう思われているのか、時間の経過とともに絵がらも随分見やすく美しくなっているように思える。

でも…この人の場合、やはり漫画よりはイラストのほうに軍配が上がる。
私の好みも有るだろうけれど。

それと、妖魔や怪物よりも、メイドインジャパンの百鬼妖怪のほうがいきいきとして、ずっと素敵に思えて仕方が無い私なのだった…。

ISBN:4048534181 コミック 山田 章博 角川書店 2001/11 ¥1,155
○マと称されるシリーズ本を読み出す。
「最終兵器」を過ぎて、現在は「大脱走」へ。

旨いこと書いてるよな〜とほとほと感心するのは、ぽんぽんとまるで上方万才を見るかのように、リズムよく進む受け答え。
専門用語で「ボケと突っ込み」というのであるが、これを縦横無尽に使いこなす作者のセンスの良さである。
(どう考えてみても、あれは万才である)

いやいや本当に、癒されるシリーズだな〜(笑)
少女漫画のようにきらきらの美形登場人物が目白押しなんだけれど、そうと感じさせない(忘れさせてしまう)描写がとってもすばらしい。

あとは「風が吹」いたり、「トサ日記」だったり、「陽が登」って「夕暮れ」で「雪が降る」のだそうな。
話によると、その後、まだまだ続くよ何処までも……らしい。
ワンパターンにならぬことを祈る。

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