おばかさんとは、知恵を磨くための砥石…なのだそうだ。

シャークスピアが言っている。(彼の場合は道化のことなんだけど…)
ウッドハウスが証明している。(この場合は勿論、バーティとその類友なんだけど)

今日も、やり手の執事・ジーヴスは行く。
そりゃあもう、ゆけゆけゴーゴー!ってな具合で、主の威光も意向もうっちゃって、己の希望の赴くまま。

しかし、彼の存在は、オバカで人のよい主、バートラム・ウースターあるがゆえのこと。
なんだかんだ言っても、「だまされているような…誤魔化されているような気がする」と自覚しつつも、「まあいいか」と、ジーヴスを大事に扱う彼の度量の広さ故のこと。
そのあたりを多分ジーヴスもわきまえていて、一線を越えないから上手く言っているのだと思う。

古きよき英国。
その中で、精神的にゆとりのある人々の、時としてはブルドックとまで称される英国魂の、片鱗であろうか。

ジーヴス・シリーズは、こんな具合で非常に面白い、大人の小説である。

ISBN:4336046778 単行本 森村 たまき 国書刊行会 2005/10 ¥2,310

ラインの虜囚

2005年11月14日 読書
主人公は、仏蘭西(の伯爵家)を飛び出した父と、カナダ・インディアンの母をもつ一人の少女。

母のことを野蛮人と呼び、父のことを馬鹿だ阿呆だとけなす祖父(伯爵)に対し、両親の名誉を守るために単身仏蘭西にやってきた16歳の彼女・コリンヌは、祖父からひとつの条件を出される。
「ラインのほとリに起つ塔に閉じ込められた謎の人物が誰なのかさぐること」
そうすれば、おまえを認めようと。
…つまり、財産を相続させようと言うのだが、コリンヌの目的はお金ではなく名誉。
頑固で全時代的な祖父に、父と母と自分を認めさせること。

だが、そうは思わない人間もいる…んだよね……。

田中芳樹氏の珍しい(?)児童書風冒険小説。
ゼンダ城の虜とか、中国の演義とか(水滸伝や三国志など)、標題がすべてを表す描き方で、非常費面白い。

いかにもインディアン(東洋系?)の血が入っています、というヒロイン・コリンヌ。
やはりクオーター(父親がアフリカの混血)アレクサンドル・デュマ(大デュマ)。
いまや飲んだくれと化した、ようにも思えるが実は凄腕の、仏蘭西軽騎兵の勇・ジェラール准将(こういう嘗めの小説があったような…?)。
ダンディな海賊・ラフィット。

このでこぼこカルテット(?)というか、グループが、迫り来る陰謀を退け追い払いして目的を果たそうとする。

デュマの父親は「黒い悪魔」と呼ばれた百戦錬磨の仏蘭西の将軍だった。
以前読んだ小説を懐かしく思い出す。
その血を次ぐ彼が小説家…とはこれいかに。
だけど冒険小説を選ぶところは流石か。
その息子(小デュマ)のことも、会話には出てきている。
「今、6歳」
その彼の代表作は「椿姫」
祖父から父へ、父から息子へ。
実践で冒険する人⇒小説で空想で冒険する人⇒紙上で苦しい恋愛をする人
と変ってゆくのだね。

ちょっとセピアな写真っぽいイラストもなかなかいい。
子供向けなので字は大きいが、驚くなかれ、内容は大人が読むのにも充分耐えるのだ。

ISBN:4062705753 単行本 田中 芳樹 講談社 2005/07/07 ¥2,100
シリーズ最終巻。
1巻目で現状。
2巻目で隊長の過去と傭兵部隊の説明。
3巻目で…収拾つくのかな?
と心配してたのだが。

ついたな。
それも結構まるくきちんと収まるべきところに収まって。

たくさんの問題が集積した時には、とりあえず一歩づつ地道に解決の道を選べば連鎖(!"ぷよぷよ!")して解決する。
それが一番の早道…の見本みたいだ。

傭兵隊が主役の小説だから、勿論のこと、かれらの活躍するのは主に戦争中だからして、戦争もあったけれど、それは二の次。
…という面白い設定だったな。

傭兵隊自体の設定の仕方が斬新だったのと、ラストはな〜んだ、そうだったんか〜とくよくよ悩んでいたものが一気に解決して「なんであんなことで悩んでいたのか」と思わせてしまうぐらいすっきりと終わっていた。
ま、それも主役のジア・シャリースの性格ゆえ…ありえた結末ではあるが。

お医者様。
…かわいそうに。実はそんなに悩んでいたの?しかも一人で?
で、ひとりで割を食ったのは、Dr.ヴァルベイト。
しかしてその実体は……!
でした(なんのこっちゃら…笑)

けっこー人間の心理を尽きてくる作戦が多いので、そういうのが好きな人には大当たり。
嫌いだと徹底して好きにはなれないだろうな、この小説。
戦争中の傭兵団の話だというのに、戦闘場面もそんなに多くはないし。(と私が思うだけ?結構あった?)

ただひとつ。
彼とか彼とか彼が 跋扈 うろうろする、エンレイズの宮廷って……

この作者の書き方というか、思考の流れ方が、好きだな。

ISBN:4125008922 新書 駒崎 優 中央公論新社 2005/06 ¥945
表紙の絵を見ても分かるとおり…ヒロインは、寒い季節に寒い国"ユリ・スカナ"に入った。

ようやくすべてのしがらみ(?)を捨てて、新しい人生を拓こうとするカリエだったのに。
ここでもまだまだ危機は去らない。
…つうか、しつこすぎるぜ、ダンナ。

子供みたいに執着するのはエティカヤの血の王(もと旦那)。
邪魔だから、抹殺…とは小説にも書いてあるが、いやぁ〜これはやっぱり執着ですよ。

元彼(エド)(笑)と手に手をとって逃げたんが、そんなに気にくわんかったんか(笑)
なら、もっと素直になっとけ(笑)
「こういう男は嫌われる」を地で行ってるよ、あんた。

新しい命を抱いたカリエ。
その彼女をあくまでも守ろうとするエド。
ニヒルで危険な男から、女房に逃げられた亭主という三枚目に急落したバルアン。
(あ、すると、エドは不義密通の相手ですか!?)

雪と氷に閉ざされる北の国で、新しい陰謀がカリエを取巻く…予定のようだ。

こうなったら、エドが傭兵で出稼ぎして、カリエは人里離れた森で"森の人"となって暮らすしかないか〜。
あ〜でもって、村人にはいつしか"魔女"とか言われるんだ、きっと。
出入りしている連中(サルベーンとか?)が、とっても怪しいからさ……。
(ラクリゼはいいの…お気に入りだから)

ISBN:4086005972 文庫 船戸 明里 集英社 2005/06/01 ¥520

地震

2005年11月10日 読書
東海大地震。
南海大地震。

日本は地震大国だ。

だけど、起こるのか起こらないのか、どこまで予知できるのか、予測値の確率を上げられるのか。
それすらも分からない、あくまでも"予知"なんてあやふやなものに国が何億ものお金を出したのは、日本だけ…なんだそうだよ。

ああ。
「日本沈没」で、ぐるぐる回りながら沈んでゆく金閣寺を思い出す。
鮮明に。

墨攻

2005年11月7日 読書
頭は坊様のようにそり落としてます。
汚い着物を麻縄でくくっただけです。
どこまでも出かけて行き、一生他人のために働きます。

およそ、綺羅綺羅しい生活とは縁がありません。
というか、目もくれません。

墨子を祖とする、墨家一門の、それが本当の姿です。
(剃髪はこの小説の主人公・革離だけのようですが…)

ちょっと覗き見してみたら、離れられなくなってしまった…文庫本170頁ほどで370円弱。
安かったので、ちょっと読んでみようかな…と、手を出したのだった。

墨家については、ちゃんと本を呼んだことが無いので、漠然とした噂(他の小説に出てくる話として)しか知識が無かった。

戦争を忌み嫌う人々の集団である。
人が自分を愛するように府とを愛し、人類を愛すれば、戦争は無くなる、という考え方である。
自分と同じように他人を考えることが出来れば…二十一世紀のいまでも、充分人類の課題として成り立つな。

でも現実には戦争だらけ(墨子の生きた時代は中国の春秋戦国時代である)なので、『守る』徹底して『守って落とさせない』城を作ったのだ、彼らは。

だから、守城の専門家であり、軍事に秀でた戦略家でもあるという、墨家本来の理想とする「兼愛」とは真反対の活動により、平和を目指すという不可思議な集団となっていた…らしい。

『守る』といって約束すれば、たとえ城主が脱出しても最後まで城を守って戦い、刀折れ矢尽きたときには、全員枕を並べて自害したという。
激しい。
だが、故に、「墨家は信ずるに値する」という力を得た。

約束を破らないってこと、信頼を得るということは、簡単なようで難しいけれど、それが出来た時にはものすごい"力"になる。

ISBN:4101281122 文庫 酒見 賢一 新潮社 1994/06 ¥380
読み始め…なので今後どう展開してゆくのかは不明だが、序に述べられていることを要約すれば、

普段から細かいことは気にしない、くよくよしない、という精神的処理をして私たちは日常生活を送っている。
それは日本人だけではない。
人間一般にいえることだ。

逆に言えば、いちいち細かい事象を気にする人は「神経症」であるとか、「精神的不安定」と称されて、日常生活に支障をきたしている。

つまり、自分でブレーカーをあげてるんだね。きっと。
そうしないと、とてもじゃないけど対処していられない。
頭がおかしくなってしまう……。

その、自然のうちに「解消」してしまう精神構造が、万に一つの危機のときに障害となるわけだ。
つまり、「これぐらい大丈夫」「私は大丈夫」「きっと大丈夫」なんて思っているうちに避難のチャンスを失う。

洪水やなだれなどの避難指示に、全員が従わないというのがそのひとつの例。
また、日本における地震についての思考を考えると分かる。
昔から語られる"逃げようの無い"大地震については、おおかたの日本人は「なりゆきまかせ」で諦めているのではなかろうかと……。

だって、来るものは仕方が無いし。
いつ来るかわから無いんだし。
そんなものをびくびくしながら暮らしてゆけない。

ほかに、
9・11の時、警備システムの間違った指示(「パニックを嫌って脱出指示が遅れ、あたら犠牲者を増やした」)や韓国の地下鉄放火事件で「大丈夫だから動くな」という車内放送のため、とどまって焼死者が増えたことなど。
この二つは、スペシャリストの判断を過剰に信じすぎたからなんだそうだ。
このスペシャリストたちは、「パニックになるから」動くなと、じっとしているようにと、あたら多くの人命を奪うことになる指示を出してしまったのである。

だいたい、「災害時のパニック」については、実際に起こる確率は少ないというのが現状の見解らしい。
(知らなかった)
万が一、なにか大災害が起こったとしても、パニックに走る、という確率は少ないらしいのだ。
昔は何かというと「パニックになるから」といっていたらしいが…。
だから、今では研究者は、侮蔑をこめて「パニック"神話"」(神話=現実的ではないこと)と呼んでいるらしい。

また、自然災害は、そこにかける費用効果が、何もしない時に比べて上であると判断されればかけられるが、そうでなければ何もしない……。

都会の真ん中を流れる川の整備は大金を投じてなされるが(氾濫した時の被害が大きい)、過疎地ではされないのである。
被害が大きいとは、判断されないからだ。

なんだか…切ないですね。結局は自分で危険を判断して自分で行動しななさいって事だ。
判断できるように、間違った行動をおこさないように、常に準備をする(意識する)ってことが大事なんだろうな。

韓国の地下鉄でも、咄嗟に逃げた人は何人もいたらしいから…。

ISBN:4087202283 新書 広瀬 弘忠 集英社 2004/01 ¥735
新刊が出ました!

あ〜前の話…わすれてるぅ〜〜。

主人公がひどい目に遭ったことだけは確かだが…。

さて、そのキッド君。
今度はザ・ロック(ジブラルタル)でひと時の甘い時間を過ごしながら、再会した朋友・ニコラスの勧めもあって地中海の奥深く、ヴェネチアへと向かう。

ニコラスが心配したのは、キッドがとある有力者の夫人の魅力に参って足元が見えていないってこと。
しばらく現場を離れれば頭も冷えると踏んでのこと。
なるほど。
名案。

ところかわって、そこはベネチィア。
カルナバルのキョウランに酔いしれる街。
ナポレオンのフランス軍はすぐそこに……。

で、そこでは今度はニコラスが…理性と理知の塊のニコラス・レンジが…
それもベネティアという街の見せる夢だろうか。

とまあ、艱難辛苦(?)が待ち構える前半戦。
セント・ヴィンセント沖海戦を勝利に終わらせた英国海軍の意気は嫌が応にも盛り上がっているはず、なんだけど…?

単純と言うか。
純真と言うか。
およそ人を疑わないトマス・キッド航海士。
彼の一歩づつを、その歩みをゆっくりと見守りたい…と思ってるんだけど、ホンマに大丈夫か?この御仁は。

ISBN:4150410976 文庫 大森 洋子 早川書房 2005/10 ¥1,029
今年の春のJRの脱線事故でもそうだったが、人間の想像以上の事故が発生した時、人が普段考えてもいないような何かが起こったとき、無事でそばにいる私たちはいったい何ができるだろうか。
JRの事故のニュースでは、近くの会社の従業員が何人も何人も何度も何度も往復して水や毛布やその他色んなものを運んでいる、走り回っている姿が映っていた。
勿論、ニィースの中心は事故車両と救い出されてうめく血だらけの乗客たちだったが、画面の端々に登場する彼らの姿は、私の目には大きく写っていた。

私に、ああいう事ができるだろうか。
すぐに行動に移せるのだろうか。

残念ながら、それは疑問なのである。

あの日航機事故から、20年がたった。

夏休みのお盆前。
ちょうど休みに入ろうという時。
狭い日本を東へ西へ、人々が一斉に移動する時期だった。

著者は、警察側で指揮を執ったひとり。
その立場から、当時の一人一人の働きを、人間というものを、振り返っている。
不眠不休で働き、でも、遺族からは権力の手先のように誤解されもし、憤りよりも悲しみと未曾有の惨事に平常心を失いかけながら必死で働いた、とある。

炭化した遺体もあれば分断された遺体も多い。
そのなかで個人を特定するのは難しい。
今では当たり前のように思える、歯による判断は当時はまだ今ほど当たり前のことではなかったようだ。

そんななかで、歯科医はその重要性をきちんと把握していた。
関西を始め、各地の歯科医が「自分の患者は自分が見つける」と、診断記録や資料をもって現場に駆けつけた。

警察も、医師も、看護婦も。
そして現場の異臭の中で肉親を求める遺族も。
それらすべてを取巻いて、異様な空気が満ちていた。
想像の枠外の、異様なムードだったろう。
でも、何があっても、遺体を遺族に返すという気持ちとやり抜くという気持ちで強く結ばれていたという。
限界を超えたところで発揮される、実力以上の力が働いていたのかもしれない。

言い方は悪いが、火事場の馬鹿力、みたいな。

阪神大震災のときに、か弱い老人が、家の屋根や壁を押しのけて脱出したような…。

著者のメッセージは、ひとつしかない命を大事にして欲しい。
それに行きつく。

言われるまでも無い、と想いながら、実際には軽視している。
毎日テレビニュースで読み上げられる事故や事件を聞いていれば、そうとしか思えないだろう。

内容で気になったのは、宗教観の違い、ということ。
当時テレビでも話題がでたが、日本人以外の乗客の遺族は、遺体を取り戻すことに執着をしない。
「死んだ」という事実を確認できれば、あとは魂のない入れ物だから、現地で荼毘に付してもらえればいい。
そういう考え方だ。
例を挙げればとアメリカでの航空事故で、両親を失った人。
飛行機事故を知らされ、現地を見て、是なら誰も生きて入られないと思い、遺体も遺品も確認することもなく死亡を認めて補償交渉に入った、ということである。
こんなことが外国では当然として行われているのだという。

日本人はこのことをどう思うだろう?
そんなやり方を認めるだろうか?

多分、認めない。
どんな形になっていようとも、遺体を、遺体の一部であると信じられるものをその手にするまでは、決して認めない。

そう。
日本人は違うのだ。
シベリア抑留置の土を。
遠い南の島の土や石を。
海の水すらも、その人もからだの一部と信じて取り戻そうとする。
日本の国土に還そうとする。

"何か"を連れて戻ろうとする。

無宗教を標榜する日本人が信仰するのは、"日本"というこのの果ての小さな島そのものなのだろうか。

失ったものは帰らない。
二十年経とうとも、五十年たとうとも、悲しみは癒されることは無い。
それが過ちによるものであればなおさらの事。
防げ得るものであったのなら尚のこと。

遺された我々の胸には、後悔ばかりが降り積もる雪のように静かに層をなしてゆく。
そんな気がする。

ISBN:4062565153 文庫 飯塚 訓 講談社 2001/04 ¥714

異種格闘戦

2005年11月2日 読書
妖魔相手に皆、苦労しているなぁ…

パルスのあちらこちらで、ザッハーク配下の有象無象が蠢きだす。
人を滅ぼしに、否、喰いにやって来る。

そんな訳で、妖魔と人の、大戦争が始まる。

……生きたまま食べられるのはいやですねぇ。
こんにちわ。
お久しぶりです。
本当にご無沙汰でしたが、お元気でお過ごしでしたでしょうか?

…というぐらい。
随分とご無沙汰だったわねぇ〜〜という一冊である。

新書版で出しなおしをしていたことすら知らんかったですわ、私。
で、ようやく「新刊」であるこの本に行き着いたわけ。

おおー久しぶりだと、文体がなんだか…しっくり来ないわね。
田中氏の作品では中国物をちょいとかじったりしていたから(あとおりょうサマと)変な感じでなれない感じでしばし読み進む。

蛇王・ザッハーク! 
すらも、さほどの気色悪さを感じなくなっているし、ファランギースもギーヴも、もっと洒落たこと言ってたんじゃなかったっけー?
…などと、いささか印象が違って感じる。
多分、間があきすぎて、イメージが膨らんで一人歩きしているせいだと思われる。

何よりも困るのは、ストーリーの大半を忘れてしまっていること(笑)
大筋は覚えているけど、王弟ギスカールはなんでこんなとこにおるのだ?
ヒルメスは…(以下同文)
ファランギースとアルフリードは…(以下…)

などと、ドン・リカルド同様記憶喪失になっちゃった気分だ。

これって…やっぱり作者が悪いんだよな、作者が。

で。
いよいよ化け物大集合ですか。
ペルシャの歴史を楽しんでいるのだと、私なんぞは思っていたのだが…いつのまに妖怪モノに…??

ISBN:433407619X 新書 田中 芳樹 光文社 2005/09/22 ¥820

猫語の教科書

2005年10月30日 読書
猫が小説を書きました。
さて、その目的は……
交通事故で母を亡くし、生後6週間にして広い世の中に放り出される。1週間ほどの野外生活を経て、人間の家の乗っ取りを決意。いかにして居心地のいい家に入り込むか、飼い主を思いのままにしつけるか、その豊かな経験を生かして本書を執筆。四匹の子猫たちを理想的な家庭へと巣立たせた後は、いっそう快適な生活を送り続けている。

と言う、著者近影(白黒)は面構えのよい、一匹の猫である。

つまりは。
猫が見た人間生活。
猫が見た人間のいいところ悪いところ。
人間の操縦の仕方。

などなど。
猫好きがにゃあぁ〜♪と喜びそうな小説になっているらしい。
誰かのレビューで読んで、「これは♪」と思って入手したのだが、私はどちらかといえば犬党。
ただ、動物は大好きなので、猫も好き。

夏はぼろぞうきんのような毛並みの猫が、冬はミンクのコートを纏った女王様みたいになるのを確認したとき以来、彼らには一目置くことにしている。

ISBN:4480034404 文庫 スザンヌ サース 筑摩書房 1998/12 ¥609

パートナー

2005年10月30日 読書
密偵ファルコのパートナーは誰になるのか?

11巻までの3巻で、3人の人間をパートナーとして事件を解決してきたファルコである。
彼が選んだのは誰なのか。

わがままで頑固で女には振られるアウルス・カミルス・アエリアヌスの得点がここに来てぐぐぐい〜んと上昇したのは確かである。
後はもう少し…世慣れてくれば。

しかし。
密偵ファルコシリーズと言うのは、我らファンが思うほど評価されていないらしい、日本では。
もったいない!
そんなに読まれてないなんて、もったいない!
こんなに面白いのに!

嘗てカドフェルに嵌まりに嵌まった私である。
その私が言う。

このファルコ・シリーズ!
最高に面白いぞよ!

でもってなんでも理知的に解釈しようとする読者諸君。
地形図や地図がよく分からん、説明不足で面白味にかけるという読者諸君。
それは、日本人には特にありがちなこと。
かく言う私も、かつては、読み始めた最初は、必死で位置関係を追いかけたもんでした。
でも!
そんなところを、重箱の隅をつついていても始まらない。面白くもなんとも無い。
第一、ファルコの魅力はそんなとこにはないのだ。

大ローマ帝国の大版図。
それと同じように、彼の活躍する舞台もこせこせしたローマ市内に限られない。
それを追いかけてゆくだけで、充分楽しめる。

市内をおっかけっこするファルコが、どこをどうやって逃げたか分からない?
あの道を通ってこの道を抜けて…
だいたいあっちの方角…では駄目なんかな?

聖なる灯を守れ

2005年10月29日 読書
やっとここまでたどり着いた…。

しかし、早いなァ〜もう11巻ですか。
ヘレナとも上手くいっているし、ユリアは可愛いし、カミルス家(ヘレナの実家)は 諦めがついた 誤解を解いてファルコを婿として認めたようだし。
皇帝ウエスパシアヌスは相変わらず吝嗇家だけど一応チャンス(機会)ととっかかりの地位はくれたし。

前回、ついこの間は、
     ヘレナの下の弟の問題。
          (結婚と財産と)
今回、只今現在は、
     ヘレナの上の弟の問題。
          (財産と仕事と)

順繰りに片付けて行くしかない。
片付けてゆけば、それがすべて自分の問題解決の糸口になってゆく。
そういう運命のようだ、ファルコは。

実は策略家だった舅とひそひそ密談をする場面が結構好きなので、今回から何かといえばユリアがそこに乱入してくるのがまた楽しみになってきた。
(ジジ馬鹿は傍で見ていると非常に滑稽で笑える)

シリーズは11巻で、いい加減この作者の表現方法にもなれて飽きてきてもよさそうなものだが、人の意表を突く物語と真相と、なによりファルコの魅力が、巻を追うごとに強くなってゆくのだから、まだまだ飽きている暇はない。

ISBN:4334761607 文庫 L・ディヴィス 光文社 2005/10/12 ¥700
そうです。
少し前にテレビでドラマでやりました。
主演は反町貴史氏。(こんな字?芸能人はよく知らないので間違っていたら済みません)
奥さん役に飯島直子さん。(とても綺麗でした)

「命のビザ」の(多分)最初に出た本は、随分昔に読みまして、今回は読了後に人に渡すことを考えて、子供向きの版にしてみました。

…だけど。
写真が多いね、これ。
人に渡すのがもったいないぐらいに。

自分の信念で、すべてをなげうって一心に動けた人。
はたから見れば「格好いい」で済むけど、本人は家族はそれどころじゃないでしょ。
必死だったろう。
だけど、人の命が懸かっている。

自分の命とはかりにかけて、それでも救った6000人。
こんな人を日本政府は戦後抹殺してたんだよね。

なんて国だろう。

「臭いものには蓋をする」

ひたすらそれだけ。
そういうことしかやらない。

情けない。

この本は奥さんの幸子さんと長男の弘樹さんが書かれているが…その長男の弘樹さんはすでに故人であるという。
少々驚いた。
2001年没。
生年が1936年だから、随分早く亡くなられている。
お父様の名誉回復がされたあとで何よりであったが…。

人は、集団になれば信じられない残酷な真似もできる。
一人一人がどんなに優しい心をもっていても。
集団になれば鬼にも悪魔にも成れる。

そして、人は、
たった一人でも、勇気をもって行動することが出来る。
とてもとても、大きな、勇気がそこにはある。

わたしにも、そんな勇気を生み出すことができるだろうか。

ISBN:4323018762 単行本 杉原 弘樹 金の星社 1995/09 ¥1,470
我らがジャック・オーブリー。

天然であるが故に…不要な危ない橋をわたっている気が…。

というか、橋脚を自分で削っているような気が…。

というか、相棒(ドクター)のネクタイを引き絞っている気が…。

海洋冒険小説が、スパイ冒険小説に乗っ取られつつある今日此の頃。
スティーブンは苦悩する。
ジャックが天然であるが故に?

愛すべき天然。

そして、ドクターも負けていない。
女性に対する、人の良さという点で。
いかにクールを気取っても、ねっこがよすぎてだまされる。

それが彼らの身を助けるのか、はたまた脚を引っ張るのか、そのあたりも楽しめる稀有な海洋冒険小説である。
案の定、よくわからない(マチュリン談)東南アジアはっさと抜け出して、インドどころか大西洋に。
そこでアメリカに宣戦布告。

さっそく拿捕賞金と名声目当てで喧嘩を売った艦長…はオーブリーを便乗客としたまま負けるし。

そのままボストンへ連行されてしまう我らがジャック。
アダム・ボライソーがもっと悲惨だったことを思えば、頭が春な方々と楽しく陽気に騒いでいる分、まだましかも。

いや〜しかし。
アメリカ海軍、強いやん。
ご立派、ご立派。

思いもよらなかったけどな。

ISBN:415041095X 文庫 高沢 次郎 早川書房 2005/09/22 ¥735
最近では「オーブリー」で検索ヒットするのね…すごい。
さすが、映画化の、そしてそれなりのヒットの影響は半端じゃない!

…で、小金が入ったので、ようやく読めるこの本である。
「出たら教えてね♪」
と頼んでおいたのに、スルーされてしまい、お陰で入手にえろぅ時間が掛かってしまった。

まあいいか。
今は至福の時。

前作は、ばーさんシップで、とおいとおい東アジアまで行け!なんて命令を受け、格上の敵艦に執拗に追い回され、吼える40℃(南半球喜望峰周辺名物・遭難多し)を死にそうになりながら突破して(ついでに敵艦沈めて)へろへろになりながらマレーシアまでやってきた。

…んだってこと。
すっかり失念してた。

で、いきなり。
これが噂のウォンバット!!(笑)
…と、確認しながら、笑いながら読み進む私であった。

しかし、エジプトの蛇とかより、はるかに親しみやすい可愛い生き物だから…大目に見たのだろうジャックもさ。
うるうるした目で見上げられたら、帽子のひとつやふたつはね…。

最初の舞台は、今でも海賊が出るので有名な、あの海域あたりである。
英国は、オランダを追い出して、英国がここいらに拠点を置こうと頑張っている真っ最中である。
そもそも16世紀末には極東の島・ジパングまで進出していたというのに、1623年のアンボイナ事件でインドまで後退を余儀なくされた英国である。(折角長崎に商館まで作っていたのにね。残念!)

そのかわりに東アジアの貿易を一手に引き受けたのがオランダだ。
口惜しかったろうね。
いばりんぼさんの英国としては。
で、今度こそは、シナという超大国をめざし、せっせとその足がかりを作らねばならない。
オランダがナポレオンの仏蘭西の支配下に置かれ、バタビア共和国なんていうおもろかしい名前になっている今がチャンスである。
「仏蘭西は敵だ」⇒「バタビア共和国は仏蘭西の支配下にある」⇒「バタビア共和国(オランダ)の植民地は仏蘭西の植民地だ」⇒「よって正々堂々とこれを攻撃して奪取してもかまわない」という理論である。
わけわからんな…。

ちょうど英国の東インド会社に書記見習いとして雇われたラッフルズが辣腕を振るって、海賊の溜まり場に過ぎなかったうらぶれた一漁村を拠点に足がかりを創り上げてゆく、その創世期に当るかと思う。

うらぶれた一漁村は、昔々獅子が棲んだという伝承の残る「シンガプラ」という土地であり、すなわちこれが、ここが、のちの、シンガポールなのである。

だから。
さきごろアメリカ資本に買収されちゃったホテルや銅像などにラッフルズと言う名が冠されているのだね。
書記見習いが銅像ですよ…自分の腕一本で。
たいしたものです。

本人は…家族(奥さんと子供?)を現地で病気でなくした上に、自分もまた病身で故国へ戻り、最後は脳卒中だか脳梗塞だか…まあ…いい晩年ではなかったようですが。(もともと偏頭痛もちだったようだ)

このラッフルズという人物が、仏蘭西以上にオランダ嫌いで有名で、そのあたり、ここに赴任して駐在している英国軍にもなにかしらの影が見えてくるのかな、と思ったりもするのだが。
さて、小説にはそこまでかかれるかどうか。
まあ無理でしょう。
とにかく、ジャックは忙しい。
いつまでも東アジアにじっとしてなんかいられない。

ま、どうせ我らがラッキー・ジャック♪には、拿捕賞金と愛しいソフィーの影しか見えていないだろうし。

ISBN:4150410941 文庫 高沢 次郎 早川書房 2005/09/22 ¥735

人、人にあう。

2005年10月24日 読書
人というのはふしぎな精神の働きをもっており、他人を侮蔑すると、感情の濃度が高くなりすぎて、精神の働きを鈍化させ、人としても成長をとめてしまう。


生きるということは、起つ、ということだ。自然の静謐に異をとなえることだ。さわがしさを放つことだ。自分のさわがしさを嫌悪するようになれば、人は死ぬ。


どちらも「楽毅」第4巻からの引用である。
が、私たちが今、この高度に自動化された乾いた社会で生きている今ですら、これは真実だ。

下手に隠棲せず、人としてまだまだあがきながら生きてゆくことを後押しされたような、そんな気分になる。

勇気を与える言葉だ。

宮城谷氏の作品はいつも力を与える。
目に見えないなにかを与える。

氏は歴史をひとつの道具として人間を描く。
それは歴史小説という名で、人の生き様を人に"見せる"
ことではないか。
だからこそ我々は、共感し、涙し、大いに感情を揺さぶりもする。

歴史とは、単なる暗記の対象ではない。
いわんや、ただの試験のための学歴のためのステップではない。

人の生をそのなかに含んでいるからこそ、何千年と経て尚、人の心を揺さぶり動かすことも出来るのだ。

だから。
歴史をどう見るか、どうとるかは、すべて受け手の器量次第なのである。

鷹の道

2005年10月23日 読書
俳優・榎木 孝明さんの水彩画をまとめた本。
つまりは画集ですね。
水彩画がとっても柔らかくて優しくて、ファンになりました。

そして、彼が売れかけた、その走りの頃だったので、今ではちょっと考えられない地方営業ーつまり、サイン会で購入し、サインを貰い、握手をしてもらい、なんとツーショットで写真まで撮ってもらったときの記念すべき一冊なのである。

あ〜遠い昔の話だなー(笑)

多分、ドラマの出演なども余り無く、外国への取材など、ドキュメントの仕事が多かったころだと思う。

外国の、しかも中部アジアやインドなどの過酷な土地で、仕事の合間を見つけてはさささっとスケッチをして、軽く水彩で着色して…そういう絵を描ける、そういう描きかたも出来る人になっていったのだ。

だから、後に少しばかりの余裕が出来てありこちの外国を訪れた時も、ちょっとの時間で対象を捉え、スケッチブックに載せてゆくことが可能になったのだろう。

優しい絵です。
疲れたときに、ほのぼのします。

ISBN:4876206899 大型本 榎木 孝明 現代書林 1993/11 ¥3,568

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