炎環

2007年9月11日 読書
(8月30日読了)

永井路子氏の本もほんまにひっさしぶり!
悪女シリーズを読んだのは、中学生のころだったか…歴史上の悪女とかいうやつだ。

話はすべて鎌倉時代の、初め。
源氏から北条氏へ権力が遷る時代の、何人かを選んで描いた短編集。

*悪禅師:今若。すなわち、義経の実兄で全成(ぜんじょう)のこと。
彼は頼朝の軍勢に駆けつけて、政子の妹・保子と結婚していた(…とは知らんかったが)
機を見るに、鋭く、影に徹して自分の時代を待ったが、最後の最後に大すべりして、反逆者として捕えられ、処刑された。
彼は最後の賭けに負けたのである。
「悪」禅師、とは非情な呼び方。身を挺して鎌倉の為に尽くした彼にとってはあまりに皮肉である。

*黒雪賦:梶原景時の話。頼朝の心を読み、彼が口に出す前にその希望通りのことを行なっていった…がゆえに、憎まれ、最後は悪名を引き受けたまま死ぬしかなかった男。
とは言うものの、義経ファンには人気が無い。
なぜならば、彼の悪口を鎌倉に吹き込んだのが彼だったから。
政子の妹、すなわち悪禅師の妻・保子の故意か偶然かのお喋りによって窮地に追いやられる。
保子は三大将軍・源実朝の乳母でもある。
(この辺、悪禅師の権力闘争の形もわかる)

*覇樹:北条義時。
政子の弟である。
ひたすら"間"のいい男。
…だけではないだろう?とおもうぐらい良すぎる。
命の危機のあるときは、うま〜くそこにはおらず(実朝が鶴岡八幡宮で首を落とされたとき、彼も当然狙われたのだった)、なんというか…な人物。
天下を取る人間は運も味方にしなければいけないという教訓である。
信長が後一歩手が届かず、狸…もとえ家康の手にそれが転がり込んだ、というのがその証でもある。
彼の心は、源氏一門はもとより、政子・保子の姉の心や思いも捨てていたのだ。

畠山などは無骨な武士でしかない。家族を大事にするばかりでは義時には勝てるはずもなし。

頼朝もまた、武家の棟梁というよりは、あくまでも京風味の頼りない男でしかなかった。
彼はあくまで旗頭で、源氏の滅亡も致し方が無い、というのがこの一冊に流れる思想でもある。


ISBN:4167200031 文庫 永井 路子 文藝春秋 1978/01 ¥540

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