僕は、自分がそれほど頑丈でないことをしっているので東南アジアのジャングルの中、スコールにあって泥の川を漕ぐように前進しつつ……著者・金子光晴は言うのである。
うそばっかり……。
充分、強いです、貴方は。
今の日本人から見たら数倍、数十倍お強いですがな。
「どくろ杯」は、日本でのごたごた。
妻・森三千代との出会いと馴れ初め。
上海への旅立ち。
上海でのあれやこれや。
…で終了。
その続きは、この本で。
(なんか詐欺みたいやな……)
さて。
上海は、"とりあえず日本におられなくなった"やからが大挙して押し寄せる吹き溜まりのようなところであるので、ここで腐って腐臭を花って動けなくなる前に、著者夫婦は腰を上げた。
巴里に向かって出発しなければ、東京で待つ、妻・森三千代の若い恋人に彼女を渡す羽目になる。
ならば前に進むしかない。
それで、絵を書き同胞の情けに助けられつつシンガポールまでたどり着く。
途中の香港は物価ばかり高くて、良いことはなかった様子。
そこからは、妻一人を船に乗せ、先に巴里に行けと送り出し、自分はジャワやマレーやらを転々としながら金を稼いで後を追うつもり。
奥方は。
森三千代は、多分英語もそんなに出来ないんじゃないのか?
もしかして?
フランス語は出来ないと書いてある。
勉強しようにも、貧乏すぎて本も買えない生活だ。
もともと地方(地元)では首席を通して、御茶ノ水に入学したほどの才媛である。(そしてかなりの変人:昔はこーゆー感じだったのか、才媛ってのは。)
賢いのは賢い…でも、さぞかし心細かろうに、夫・金子光晴を信じたのか?
ちゃんと追いかけてきてくれると思っていたんだろうか?
それとも、どうせちゃらんぽらんだ、行ったら行ったで自分でなんとか生きてゆこう、ぐらいの気概があったのか。
なんでもあり、な感じがする…。
割れ鍋にとじぶた。
上手く出来てる、世の中は。
この文体。
この文章のイメージと言うか、感じる妖しさと言うか、…なにかを思い出す。
なんだろう、とおもったら、さっき気がついた。
江戸川乱歩だ。
江戸川乱歩のなんともいえない奇怪な匂いが漂っているのだ。
現代の漫画で言うなら高橋葉介か。
嵌まったら怖い…という、この本の貸主(友人)の科白に頷く。
ISBN:412204541X 文庫 金子 光晴 中央公論新社 2005/06 ¥840
コメント
本当に頑丈なら、日本に残ってどうにかしようとするって。上海に逃げようなんて思わないし、行ったら一旗揚げようと頑張るでしょ。この人、そういうがんばりっていうか、そういうのに欠けるのかな。
小銭を儲けては使い果たして・・でも、そこで朽ち果ててしまえるほどズブズブには腐れ無いし。変に芯があるんで、腐れ無いけど頑張れない?
そう言う意味では頑丈でない人ね。
江戸川乱歩は近いかな。でも金子よりハイソな感じがするなぁ〜(^o^)
日本人には珍しく。
あたら誇り(だけ)が高い文学者には珍しく。
自分で自分が何をしているかわかっているから、沈みきれないんでしょう。
ちなみにここに書いた「強い」は肉体的なことだけ。
体は弱くてすぐに熱を出したり…と書いているわけにはジャングルでも未開地でも困窮の中で過ごすパリの冬でも(肉体的には)元気だもん。
羨ましい。