オリガ・モリソヴナの反語法
2007年4月8日 読書
ロシア語同時通訳者だった著者。
その著者が自分の仕事や周囲のことを描くエッセイから始めて、小説家へと順調に転進して言ったのはごくごく普通の流れだった。
そう、水が高みから低きへへながれるように。
そして数多いとはいえない著書を発表した後の急死。
まだまだやり足りないこと、人生への思いがあったであろう事を思うと、こちらまで口惜しくなってくる。
さて。
この本。
『オリガ・モリソヴナの反語法』は、著者が体験した珍しいチェコでの少女時代(外国人向けの学校ではなく、ロシア語で授業をするソビエト学校に通っていた)を追体験するような、そういう小説だと思って臨んだのであるが。
とんでもない。
これはソビエト態勢への痛烈な批判であり、告発である。
小説と言う形をとってはいるが、大方30年前、1960年代の小学生時代の友達を、恩師を訪ね歩く主人公(女性)が辿る道は、次第にソ連邦の闇の部分へとその深みへと沈んでゆく。
何のいわれもなく逮捕され、殺された人々。
或いは想像できない悲惨な仕打ちを受け、それでも生にしがみついた、生き証人たち。
彼らは紛れも泣くソビエトの人間であったはずなのに。
自国の人間を、人間ではないように扱うという、扱えるというこの恐ろしさは、他書でも明らかにされていることだが(アンナ・ポリトコフスカヤ著「チェチェンやめられない戦争」「プーチニズム報道されないロシアの真実」)それでもなお、戦慄せずにはおれない。
チェコに数年滞在し、ソビエトの友達とロシア語で話し、ロシア語で思考した著者、長じてはロシア語の同時通訳者として活躍した著者であるからこそ、こういう"小説"が書けたのだろうと思う。
けれど……。
友人を、そして恩師の消息を辿る旅が、その過去を見る旅へと変化しその過去自体がソ連邦の暗い歴史にしっかりと嵌まっている…まるで推理小説のような展開ではあるが、その背景にあるものの重さ、辛さ、は笑って済ませられるものではない。
推理小説、と断じてしまえるものでもない。
軽い気持ちで読み始めたのが、すぐにも引き込まれ、のめりこむ、そんな物語である。
嗚呼。
ソビエトってまだまだ隠している部分が、歴史が、たっぷりあるんだろうなぁ……。
ISBN:4087478750 文庫 米原 万里 集英社 2005/10/20 ¥780
その著者が自分の仕事や周囲のことを描くエッセイから始めて、小説家へと順調に転進して言ったのはごくごく普通の流れだった。
そう、水が高みから低きへへながれるように。
そして数多いとはいえない著書を発表した後の急死。
まだまだやり足りないこと、人生への思いがあったであろう事を思うと、こちらまで口惜しくなってくる。
さて。
この本。
『オリガ・モリソヴナの反語法』は、著者が体験した珍しいチェコでの少女時代(外国人向けの学校ではなく、ロシア語で授業をするソビエト学校に通っていた)を追体験するような、そういう小説だと思って臨んだのであるが。
とんでもない。
これはソビエト態勢への痛烈な批判であり、告発である。
小説と言う形をとってはいるが、大方30年前、1960年代の小学生時代の友達を、恩師を訪ね歩く主人公(女性)が辿る道は、次第にソ連邦の闇の部分へとその深みへと沈んでゆく。
何のいわれもなく逮捕され、殺された人々。
或いは想像できない悲惨な仕打ちを受け、それでも生にしがみついた、生き証人たち。
彼らは紛れも泣くソビエトの人間であったはずなのに。
自国の人間を、人間ではないように扱うという、扱えるというこの恐ろしさは、他書でも明らかにされていることだが(アンナ・ポリトコフスカヤ著「チェチェンやめられない戦争」「プーチニズム報道されないロシアの真実」)それでもなお、戦慄せずにはおれない。
チェコに数年滞在し、ソビエトの友達とロシア語で話し、ロシア語で思考した著者、長じてはロシア語の同時通訳者として活躍した著者であるからこそ、こういう"小説"が書けたのだろうと思う。
けれど……。
友人を、そして恩師の消息を辿る旅が、その過去を見る旅へと変化しその過去自体がソ連邦の暗い歴史にしっかりと嵌まっている…まるで推理小説のような展開ではあるが、その背景にあるものの重さ、辛さ、は笑って済ませられるものではない。
推理小説、と断じてしまえるものでもない。
軽い気持ちで読み始めたのが、すぐにも引き込まれ、のめりこむ、そんな物語である。
嗚呼。
ソビエトってまだまだ隠している部分が、歴史が、たっぷりあるんだろうなぁ……。
ISBN:4087478750 文庫 米原 万里 集英社 2005/10/20 ¥780
コメント