プーチニズム 報道されないロシアの現実
2006年12月2日 読書
ある日いきなり警官がやってきて、貴方を連行する。
そして取調室でこういうのだ。
「麻薬か?武器か?どっちがいい?」
不法所持で貴方は刑務所送りになる。
ある日いきなり雇い主がやってきて、貴方にこう告げる。
「首だ。もうこなくていい」
もう少し親切ならば、こう言い足すだろう。
「でなければ、うちが警察に目をつけられ妨害をされる」
貴方が、チェチェン人である、或いはスラブ系であるというだけで。
チェチェン人は独立を求めてロシアに反抗し、武器を取って戦っている。
これはテロであるとプーチンはいい、西側諸国もそれを認めている。
そして何代も前にチェチェンを離れた人々や、戦争によって焼け出された人々は、新しい地での生活の場と糧を、さっきのようにしてとリ上げられてしまうのだ。
ノルド・オストの劇場占拠事件。
北オセチア学校占拠事件。
どちらもチェチェン人のテロリストが起こした事件であるが、プーチンを筆頭とするロシア政府は、外向けの報道のようには動かなかった。否、なにもしなかったのだと、この本は語る。
そして、学校にいた人質・劇場にいた人質は、その生命を無視され、ガスで窒息し、たまたまそこにいた、被害者であるチェチェン人やスラブ系の人々は、治療もせずに放置され、死ぬまで無視された。
当時のテレビニュースでは、テロリストの学校立てこもりに対して、親族達(男たち)が手に手に銃を取って自分達で<行動した>シーンが流れ、「勝手な真似を…」といわれていたが、とんでもない!
政府が何もせず、人質の命が危ぶまれた時、家族はどうするか。
人間であれば行動するだろう。
政府が何もしてくれないのなら、自分達でやる。
それは正常な反応である。
だが、テレビではニュースでは"自分勝手な行動"といわれる。
それもすべて政府のマスコミ操作である。
マスコミのほとんどは政府の広報機関と成り果てている。
そんなところがどんな真実を見つけるというのか?
なんという世界だろう。
恐ろしい。
ロシア政府は言う。
プーチンは言う。
テロリストを生んだ民族は、民族すべてがその責任を負って死なねば成らない、というのが、今のロシアの思考であるという。
そしてまた、国民もそれを支持しているというのだ。
テロは許されない。
だが、「これでは我々は独立を求めるしかない」というチェチェン人の叫びも、分からないではない。
そう思えてくるではないか。(でもテロはいけない。憎しみは憎しみしか生まない。)
かれらをテロに走らせたいのだろうか?
一体ロシアは、彼自身の国民に、何をさせたいのだろうか?
軍の下級将校達は忘れ去られ、飢えるにまかされ、それでも国を愛し信じている。
そして僻地で死んでゆく。
誰にも省みられず、彼と家族が将来どこに住み(退役すれば軍のアパートから追い出される。なんの保証もなく。)どうして生きてゆくか(年金は出るのかでないのか分からない)分からないまま。
若い兵士は、将校の"奴隷"であり、その命は気ままのうちに費やされる。
気に食わぬことが在れば虐待され・拷問され・惨殺され、その死体は遺族にもわたらない。
行方不明のままである。
恐ろしい。
この本には、圧倒されるばかりである。
常識を超えている、というよりも、まるで出来損ないの映画のようだ。
映画であれば、救世主が現れるのだが。
その望みはない。
プーチンはレーニンでありスターリンである。
否、もうツアーリと言って良いのかもしれない。
彼は皇帝としてロシアに君臨し、自国の民を食い物にして超え太っている。
独裁国家で人権などなく、国民はあえいでいる。
それは北朝鮮のことだと思っていたけれど、あの、表向きは優等生で民主化と自由化の道を歩むロシアがこういう現状であったとは…!
確かに「報道されないロシアの真実」だ。
マフィアは司法(警察・裁判所など)を動かして、暗殺を始めとする非合法な行為をすべて"無罪"で済まし(信じられないけど真実らしい)、軍や国も同じことを弱者である国民に対して行っている。
マフィア同士の抗争の現場では、それぞれ違うマフィアに加担した"警官同士"が殺し合いをしていると言う…
どんな犯罪も、権力者であれば、無罪である。
年金生活者は自宅アパートで凍死し、床に凍りついた遺体をはがすのに苦労したと言う。
国のためにと希望して軍に入った若者は、上官によって拷問され、瀕死の重傷の彼への献血を軍は拒否した。
彼らは、自国の民を痛め付け苦しめて、自国の未来がどうなるのかとは考えないのだろうか?
国は国民が、未来の国民が作ってゆくものであって、永遠に彼らがその指導的立場に立つ訳ではないのに。
……そうか。
永遠にその栄光と権力を手に入れたがるバカな権力者が、不老不死の薬などを求めるわけだ。
著者は、今年の10月に自宅アパートのエレベーター内で暗殺された、ロシアの女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤである。
一つ一つの事件を、遺族や生存者は関係者に当って真実を構築してゆく地味な作業を彼女は続けてきたのだろう。
事件の深刻さに圧倒されげんなりとしながらも、本は、とても読みやすい。
理解しやすい平易な文章で書かれている。
彼女の調査によってまとめられたものが、この本である。
最初に英国で出版され、日本語訳が出た。
だが、肝心のロシアではこの本は出版されていない。
この本を読んでいると、先日来マスコミを賑わしている事件、もとロシアKGBの将校(反プーチン派)が暗殺されたのではないか、と言われている例の事件と交差してくる。
やるだろう…きっとやるだろう…それぐらいは。
そう思えてしまう。
それぐらい恐ろしい話なのだ、ここに書かれているのは。
それぐらい衝撃的な内容が羅列されているのだ。
彼はアンナ女史の事件も調べていたらしい…。
西側諸国もしっかりと、このでかすぎて総身に智恵が回りかね…みたいな氷の巨人を導くなり監視すべきなんだろう。
ドイツ首相の一言で、結果が180度転換した事件もあったというほど、外面をとっても気にする人間だというから、プーチンは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たった一人の人間の消息を、しかも何十年も前に行方不明になった人間のいのちをしつこくしつこく追及し追いかける日本人などは、きっと理解されないんだろうなぁと、ふと思った。
北朝鮮はもとより、ロシアも。
きっと。
現在の、拉致問題の話である。
ISBN:4140810548 単行本 鍛原 多惠子 NHK出版 ¥2,205
そして取調室でこういうのだ。
「麻薬か?武器か?どっちがいい?」
不法所持で貴方は刑務所送りになる。
ある日いきなり雇い主がやってきて、貴方にこう告げる。
「首だ。もうこなくていい」
もう少し親切ならば、こう言い足すだろう。
「でなければ、うちが警察に目をつけられ妨害をされる」
貴方が、チェチェン人である、或いはスラブ系であるというだけで。
チェチェン人は独立を求めてロシアに反抗し、武器を取って戦っている。
これはテロであるとプーチンはいい、西側諸国もそれを認めている。
そして何代も前にチェチェンを離れた人々や、戦争によって焼け出された人々は、新しい地での生活の場と糧を、さっきのようにしてとリ上げられてしまうのだ。
ノルド・オストの劇場占拠事件。
北オセチア学校占拠事件。
どちらもチェチェン人のテロリストが起こした事件であるが、プーチンを筆頭とするロシア政府は、外向けの報道のようには動かなかった。否、なにもしなかったのだと、この本は語る。
そして、学校にいた人質・劇場にいた人質は、その生命を無視され、ガスで窒息し、たまたまそこにいた、被害者であるチェチェン人やスラブ系の人々は、治療もせずに放置され、死ぬまで無視された。
当時のテレビニュースでは、テロリストの学校立てこもりに対して、親族達(男たち)が手に手に銃を取って自分達で<行動した>シーンが流れ、「勝手な真似を…」といわれていたが、とんでもない!
政府が何もせず、人質の命が危ぶまれた時、家族はどうするか。
人間であれば行動するだろう。
政府が何もしてくれないのなら、自分達でやる。
それは正常な反応である。
だが、テレビではニュースでは"自分勝手な行動"といわれる。
それもすべて政府のマスコミ操作である。
マスコミのほとんどは政府の広報機関と成り果てている。
そんなところがどんな真実を見つけるというのか?
なんという世界だろう。
恐ろしい。
ロシア政府は言う。
プーチンは言う。
テロリストを生んだ民族は、民族すべてがその責任を負って死なねば成らない、というのが、今のロシアの思考であるという。
そしてまた、国民もそれを支持しているというのだ。
テロは許されない。
だが、「これでは我々は独立を求めるしかない」というチェチェン人の叫びも、分からないではない。
そう思えてくるではないか。(でもテロはいけない。憎しみは憎しみしか生まない。)
かれらをテロに走らせたいのだろうか?
一体ロシアは、彼自身の国民に、何をさせたいのだろうか?
軍の下級将校達は忘れ去られ、飢えるにまかされ、それでも国を愛し信じている。
そして僻地で死んでゆく。
誰にも省みられず、彼と家族が将来どこに住み(退役すれば軍のアパートから追い出される。なんの保証もなく。)どうして生きてゆくか(年金は出るのかでないのか分からない)分からないまま。
若い兵士は、将校の"奴隷"であり、その命は気ままのうちに費やされる。
気に食わぬことが在れば虐待され・拷問され・惨殺され、その死体は遺族にもわたらない。
行方不明のままである。
恐ろしい。
この本には、圧倒されるばかりである。
常識を超えている、というよりも、まるで出来損ないの映画のようだ。
映画であれば、救世主が現れるのだが。
その望みはない。
プーチンはレーニンでありスターリンである。
否、もうツアーリと言って良いのかもしれない。
彼は皇帝としてロシアに君臨し、自国の民を食い物にして超え太っている。
独裁国家で人権などなく、国民はあえいでいる。
それは北朝鮮のことだと思っていたけれど、あの、表向きは優等生で民主化と自由化の道を歩むロシアがこういう現状であったとは…!
確かに「報道されないロシアの真実」だ。
マフィアは司法(警察・裁判所など)を動かして、暗殺を始めとする非合法な行為をすべて"無罪"で済まし(信じられないけど真実らしい)、軍や国も同じことを弱者である国民に対して行っている。
マフィア同士の抗争の現場では、それぞれ違うマフィアに加担した"警官同士"が殺し合いをしていると言う…
どんな犯罪も、権力者であれば、無罪である。
年金生活者は自宅アパートで凍死し、床に凍りついた遺体をはがすのに苦労したと言う。
国のためにと希望して軍に入った若者は、上官によって拷問され、瀕死の重傷の彼への献血を軍は拒否した。
彼らは、自国の民を痛め付け苦しめて、自国の未来がどうなるのかとは考えないのだろうか?
国は国民が、未来の国民が作ってゆくものであって、永遠に彼らがその指導的立場に立つ訳ではないのに。
……そうか。
永遠にその栄光と権力を手に入れたがるバカな権力者が、不老不死の薬などを求めるわけだ。
著者は、今年の10月に自宅アパートのエレベーター内で暗殺された、ロシアの女性ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤである。
一つ一つの事件を、遺族や生存者は関係者に当って真実を構築してゆく地味な作業を彼女は続けてきたのだろう。
事件の深刻さに圧倒されげんなりとしながらも、本は、とても読みやすい。
理解しやすい平易な文章で書かれている。
彼女の調査によってまとめられたものが、この本である。
最初に英国で出版され、日本語訳が出た。
だが、肝心のロシアではこの本は出版されていない。
この本を読んでいると、先日来マスコミを賑わしている事件、もとロシアKGBの将校(反プーチン派)が暗殺されたのではないか、と言われている例の事件と交差してくる。
やるだろう…きっとやるだろう…それぐらいは。
そう思えてしまう。
それぐらい恐ろしい話なのだ、ここに書かれているのは。
それぐらい衝撃的な内容が羅列されているのだ。
彼はアンナ女史の事件も調べていたらしい…。
西側諸国もしっかりと、このでかすぎて総身に智恵が回りかね…みたいな氷の巨人を導くなり監視すべきなんだろう。
ドイツ首相の一言で、結果が180度転換した事件もあったというほど、外面をとっても気にする人間だというから、プーチンは。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
たった一人の人間の消息を、しかも何十年も前に行方不明になった人間のいのちをしつこくしつこく追及し追いかける日本人などは、きっと理解されないんだろうなぁと、ふと思った。
北朝鮮はもとより、ロシアも。
きっと。
現在の、拉致問題の話である。
2004年7月10日はロシアのカレンダーではほかの一日となんら変わりはない。…(略)…
昨夜遅く、ロシア版『フォーブス』誌のパーヴェル・フレブニコフ編集長がモスクワで殺された。社屋を出るところを狙われてのことだった。フレブニコフは新興財閥、ロシアの「ギャング資本主義」の構造、一部の人間が不正に入手した巨額の金に関する執筆活動で有名だった。やはり昨夜のこと、ヴィクトル・チェレプコフがウラジオストクで手榴弾によって吹き飛ばされた。彼はわが国の議会下院の一議員であり、この国の弱者、貧困層の味方としてつとに有名だった。チェレプコフは故郷ウラジオストクの市長選に立候補していた。ウラジオストクはロシア極東の要だ。彼は再選挙にまで持ち込んでおり、あと少しで実際に選出されるところだった。選挙事務所を出たところで、仕掛け線によって起爆された対人地雷に吹き飛ばされた(チェレンコフ候補は負傷した上に、裁判所によって立候補の登録を抹消された。決選投票では、政府寄りのニコラエフ地方議員が当選。彼にはマフィアとの黒い噂がある)。
そう、安定がロシアにやって来た。極悪非道な安定だ。この安定の下では、誰も裁判所に正義は求めない。裁判所は隷従と派閥根性の巣窟だからだ。判断力のない人ならともかく、正常な人ならば誰ひとり法と秩序を司るべき機関に保護を求めたりはしない。彼らは腐り切っているからだ。今日、人の心も行動も私刑の掟に縛られている。目には目を、歯には歯を、だ。大統領自身、良いお手本を示した。わが国の代表的な石油企業ユコスのミハイル・ホドルコフスキー社長を刑務所に入れ、その隙に会社をたたき潰した。プーチンはホドルコフスキーに侮辱されたと感じて、報復したのだった。だが彼個人に報復するだけでは気がすまなかった。ロシアの国庫のために金の卵を産みつづけているアヒルの首を完全に絞めてしまった。ホドルコフスキーと共同経営者はユコスのかれらの持ち株を譲渡する。だから会社は潰さないでくれ、と頼み込んだ。政府はこう答えた。「だめだな。われわれもっと欲しいんだ。」…(略)…
公式の世論調査によれば(これらの調査は大統領府との契約を切られたくない調査会社によって行われている)、プーチンの人気は最高水準にある。プーチンはロシアの圧倒的多数の支持を得ている。みなプーチンを信用している。プーチンがすることに賛成する。
ISBN:4140810548 単行本 鍛原 多惠子 NHK出版 ¥2,205
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