本屋の棚でとっても目立っていた…目立つはずだ。
宮崎駿氏のイラストが前面にドバッと。

美しい水彩画。
砂浜の続く浜辺。
静かな海。
雲間に覗く夕日を背景に、崖の上に教会が建つ。
小さな教会だ。
尖塔とがっしりした屋根の形が陰となり、まるで大きな海を睨んで建つ砦のようにも思えてしまう。
教会への道は浜辺から急な坂で繋がっている。
そしてその向こう側には小さな屋根がひしめく村が、ひっそりとだがなにかしらの存在感ももって、ひとかたまりの影となっている。

表紙にはTYNEMOUTH(タインマス)

僅か65歳で急逝(肺炎)した作者、ロバート・ウェストール。
その小作品を3編収めたのがこの本である。
すでに福武書店から出版されていた物語でもある「ブラッカムの爆撃機」。
それは、少年向けの物語であるのだが…。

時代と舞台は、第二次世界大戦。
英国空軍における、ドイツへの爆撃…その一部隊に属する男たちの物語だ。

はっきり言って…こわいぞー(笑)

爆撃の帰路、ドイツの夜間戦闘機と戦う羽目になった2機のウエリントン爆撃機。
オヤジ(機長)を始めとして、ポール(機種銃手)、マット(操縦者)、ゲアリー(無線手)、キット(航法士:ナビゲーター)、キッド(尾部銃手)の6人が乗り込むC号機は一路英国を目指していた。
そこへ現れたのがドイツ軍の夜間戦闘機・ユンカース。
狙われたのは、嫌われ者のブラッカムのウインピー(ウエリントン爆撃機の愛称)であった。
撃墜の危機、と思われたが、偶然の神さまが微笑んだのは、ブラッカムにだった。
堕ちて行く…なかなか堕ちずにその地獄絵図を見せ付けるドイツ軍の戦闘機。
パイロットの断末魔の声が、無線越しに響きわたる。(おまけに無線係・ゲアリーはドイツ語ができるときたもんだ)
長い時間、苦しみもがき、やがて爆発したドイツ機から発せられた叫びやすすり泣きの声は、非情なるブラッカム機の笑い声と交じり合って、彼らの耳に響き続けた。

そして…ブラッカム機の乗員達の(戦死ではない)謎の死。(一人はピストル自殺・ほかは帰還中に低空から飛び降り墜落死)
続いてその機に乗り込んだ乗員達が次々に"死"に取り込まれてゆく。
このウインピー、ブラッカムの爆撃機には一体どんな謎があるのか?

同時収録
「チャス・マッギルの幽霊」
もまた、第一世界大戦と第二次世界大戦の狭間を苦しみながら生きる人々の、"ちょっとした"ストーリー。
なかなか小粋なラストだと思うが、それも受け取り手によっては正反対の感想をもたれるかもしれない。

「ぼくを作ったもの」
は祖父とぼくの存在について。
ボクをつくったのは祖父である。
肉体的にも観念的にも…。

人は、どんな人生であっても、やっぱり、自分だけの人生を歩んでいる。

……言いにくいな。
なんて言ったらいいか。

まぁ、読んでもらうのが一番。

宮崎氏が物語「ブラッカムの爆撃機」の導入部分を、そしてその〆を美しい水彩画で漫画として描いている。
それを読むだけでも楽しいし、めっけものじゃないかな?
と思うのである。

ISBN:4000246321 単行本 金原 瑞人 岩波書店 ¥1,680

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