わずか10年前の単行本なんだけどね。
1巻2巻と出て、3巻目は出ずに終わっちゃったんだな〜(しみじみ)

舞台は江戸(時代)のパラレルワールド。
尾張国・京などの諸国は、江戸国の"皇帝"によって統治される。
大奥は中国・清国調の美女が行き交い、交易は主に海路をゆく帆船を操る商人が行う。

その帆船も、所謂西洋帆船ではなくて、日本の○○石船、というやつ。
菱垣廻船とかありましたね、そういえば。
帆が一枚で、竜骨がなくて、嵐にあったらあっというまにあの世行き…"板一枚、その下は地獄"という。
すべて幕府の厳しい統制ゆえのこと。
立派な帆船を作ったら、海外に行かれてしまうからである。

大商人で大富豪の紀伊国屋の一人息子(堺の歌姫が生んだ子供)シェナンド(そう、名前も和洋折衷なのだ)
父親に感動され、ぼろ船ひとつで商人への道を歩き出す。
彼の仲間は、父にも付き添っていた"じい"と、航海には絶対必要不可欠とされる、"風読み猫"のフィー。
たった一人と一匹であった。

そうなのだ。
猫はだいたい東西関係なく、好んで船に載せられていた。
積み荷を鼠(これまた船にはつき物だ)から護るためでもあり、純粋にペットとして持ち込む船乗りもいた。
積荷を護る、という意味では、日本から隣国中国(隋・唐)に送られた遣隋使・遣唐使がもちかえる経典の保護のため、猫をのっけたのが始まり、と言われている。
散歩させずにすむ点では、確かに犬より猫の方が向いているだろう。
ロープだとか高低差だとか、全体的にコンパクトにまとめざるを得ないこととか、帆船の中は凸凹していて冒険心に富む猫には特に向いていそうだ。

猫は帆船には必要不可欠な、尤も大事な"風"も呼ぶ力があるという。
そこら辺を取り入れてこの作者はこの"風読み猫"を物語りの中心に入れたのではないだろうか。
特に三毛猫の雄、は最高の風読み猫になるという伝説を作ったりするなど、猫のことをちょっとでも知っていたらにやりとする設定だろう。
なぜなら、三毛の雄は滅多に生まれないからだ。
遺伝上の問題だそうで、遺伝子の結合として、虚弱な固体を作るのだか、とにかく"生まれにくい"命らしい。
だから、もし存在するならば、とんでもなく高価な値段で取引されるのだと。

このシェナンドが風読み猫(まだ仔猫)として伴う貴重な雄の三毛猫フィーは、実は彼の父・紀伊国屋シューリッヒが風読み猫として伴っていた"伝説の美形猫・アルフォンス(♂)"の息子なのであった。
(猫なんだけどなぁ)美形ゆえに伝説というのではなく、嵐の中でも遭難させないその仕事振りも評価されているらしい(笑)
紀伊国屋が莫大な財を成した力の半分は、アルフォンスの力である。(しつこいけど、猫なんだけど)(笑)

そして、風読み猫の言葉は、海で生きる人間にしか理解できない、というおまけ付。
つまり、海賊とか船乗りとか(船を使う)商人とか…。
まあ…言葉が分からないと、猫がいくらいい風を見つけても、なんの役にも立ちませんから。

その海上航路をゆく商船や貴族の船などのお宝を狙う海賊・村上シルバーとの出会いがあり、以後彼との腐れ縁も続いて、船幽霊(猫だけど)だの、殺し屋だの、地方国の陰謀だのと、時代劇にありがちなストーリーが展開されるのであった。
ただし。
猫が擬人化して出てくる、活躍するのが、目新しいのと、江戸時代の時代劇パロディみたいでかなり笑えた。

海賊に村上の名前をつけるあたり、実際の歴史事実をかなりもじっている(つまり勉強をしている)のもね、面白いと思う。
ただし、船の操舵とか操作性については、「おいおい」と思うところも多くて、まぁ…それこそマニアックな世界の話だから突っ込んではいけないと自制することしきり(笑)

ただ、マニアックな笑いになりそうだったので、続くかな〜?とかなり不安だったのは確か。
案の定、本棚から探り出してネット検索してみれば…3冊の単行本のみで(1冊は別のストーリーらしい)それきり切れちゃったみたいだ。
漫画の世界も厳しい世界だ。
人気だけが、読者の支持だけがモノをいう世界だからね。
(人気投票ってすごい影響力をもつらしいし…)

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東洋の帆船の歴史について。
とある日、とあるテレビで、「元代の帆船のすばらしさ」を語っていた。
中国の歴史上、最高の技術!
と言うてましたけど。
……ちょっと違うんじゃないかな?
技術力と言えば宋代(元のその前の漢民族王朝)から上げるべきでしょ?
だって元寇の乱の海軍力をちょっと考えてみてもさ…元は他所様だのみだったし。

隔壁を作って、たとえ外板の一箇所が破れれたとしても海水が流れ込むのは隔壁に囲まれたひとつの部屋のみ。
あとは浸水しない。
そのように作った船で…元のあとの明代には鄭和が大航海を成し遂げている。
アフリカ大陸まで行ったのだからそれはもう!
元代がその技術を継いで完成させたのだとしても…やはり挙げるのなら(褒め称えるのなら)その前の宋代ではないの?
…と思うんだけどなぁ。
認識が間違ってるのかなぁ?私。

日本だって、安土桃山時代には山田長政とか、東南アジアぐらいにはばんばん人が渡っていたのになー。
おりしもヨーロッパはアメリカへの移民もあったり、アジアへの進出(と強豪列強の植民地争いとか)もあったりで、世界中が"海外へ!"の時代だった。
日本もそのブームに"乗れて"いたのに…。

鎖国によって育まれた島国の特質は、よくもあり、わるくもありで一概には断じられないものである。
ただし、海は外界との隔てであり壁でしかない、コワイものに成り果ててしまった。

英国のように海は"外界への自由自在な道"という意識は生まれなかったのだ。

ISBN:4049246252 コミック 香乃呼 ゆり 角川書店 ¥407

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