犬のいる暮し

2006年10月6日 読書
・来世に僕を待ってる犬がいる朝早くより涅槃西風             『海に降る雪』(備中省七)


すっかり犬に嵌まってしまったね……。

著者はハラスという柴犬を最初に飼い、それに死なれてから5年間は犬を飼うことを考えなかった。
えてしてそういうものである。
「あの子を死なせたのに、次の犬を飼うなんて」
とか
「二度とあんな悲しい目には遭いたくない」
とか。
考えてしまうものである。

でも、人は、はやり犬とともに生きたい。
そう思い始める。

二番目に飼ったマホ(有名な絵画の題名の男性形)は、柴犬の癖に先祖がえりして、20Kgの大犬になってしまった。
20Kgの柴犬………。
柴犬の標準体重は10Kgだそうで、なるほど、ウチにいた柴犬のハッピーは1代目も2代目も9Kg前後までしか重くはならなかったことを思い出す。

悪戯好きのマホ。
人の反応を分かっていて、試すようなことをする。
そのあたり、ウチの柴犬もそうだったなぁ〜と思い出す。
特にハッピー2世は甘えたなオス犬で、膝の上に乗っかって、私の心臓のあたりに頭をつけ、身体ごと私にもたれていた。
いつまでもその姿勢でじっとしているのである。
やたらとスキンシップを持ちたがる犬であったが、くしくもこの、マホと同じく腎不全で早世した。
わずか2年。
彼の一生は短すぎた。

彼の後に飼ったのは、紀州犬のタケルだった。
紀州犬はなんと、生後半年で10Kgを越え、1年も経った頃には15Kg…。
それがまだ、心は子犬だから(笑)じゃれる、とびつく、登ろうとする…。
こっちは幾ら踏ん張ってもひっくり返りそうになる。
おまけに真っ黒な体に、4本の足の先のほうと目の上にちょんちょんと昔のお公家さんの眉みたいな部分だけが白毛であったから、近所でも「こわい」とか畏れられて(本人は人が大好きで遊んで欲しいのに)可哀想な、不憫なヤツであった。
いや、真っ黒い犬で、でかくて、飛びつき癖があったら…怖いよな、普通は。
また、通りがかりの人に、たとえ相手が自転車で疾走していうよとも、誰でも彼でも飛びつこうとする(遊んでもらおうとする)ので、「あのおばさんはアンタの友達か!?」となんど怒ったことやら。

でかくて真っ黒な犬に飛び掛ろうとされたほうはたまらないだろうな。

地獄(ケルベロス)の犬みたいで?
否、パスカヴィルの犬とか…?(こんな感じだったのかなと一瞬思った)
自転車に乗ったおばさんがひっくり返らなくてよかったよ。
ほんま。

でかくても、こわい顔でも、飼い主にとっては可愛い犬なのであるが。

同じ著者の「ハラスのいた日々」にもあったが、近所の、ストレスのたまりに溜まった脱走紀州犬に老齢(人間年齢70歳ぐらい)のハラスが襲われ、瀕死の重傷を負った話がある。
その時に著者は下駄でこの紀州犬の鼻面を何度も殴打したらしい。
愛犬の為に、人は思わぬ力を出すものである。
で、その時の紀州犬はハラスを放し、著者に引きづられて戸外へ放り出された(この紀州犬は夜中に著者の庭に潜り込み、そこでハラスを襲ったのだった)という話であるが、その時ヤツは一声も上げなかったのだと。
紀州犬の強さというか気丈さというか頑固さと言うか、怖さというか……このエピソードによく現れていると思う。

ウチのタケルは「遊んで!遊んで!」とぎゃんぎゃん吼えっぱなしの紀州犬ではありましたが。

確かに。
叔父が飼っている10匹前後(出産&引き取りで増減あり)の犬達のなかには紀州犬もいる。
彼らは勇猛果敢に獲物(猪)を追いかけ、追い詰める。
逆上した猪の牙の犠牲になるものも多い。(タケルもそのなかの一匹である)
だけど、紀州犬は怯まない。
あくまでも獲物に向かってゆく。
まったく、底知れぬ強さを感じさせる犬である。

……だが、お酒(焼酎)には弱い(笑)

当たり前か。
普段なら尻尾を振って歓迎する犬達が、叔父が酔って現れると、いっせいに目をそらすらしい。
目を合わせると、犬好きの叔父は犬に寄っていく。
頭を撫でるぐらいならまだしも、噛み真似をするらしいのだ…しかも、犬の鼻っ面を。
嗅覚の優れた犬にはたまらんだろう。

かわいそうに…といいつつ、そのことを、叔母は笑って教えてくれた。

されば、人、死を憎まば、生(しょう)を愛すべし。
存命の喜び、日々に楽しまざらんや。
     『徒然草・第93段』


ISBN:4167523086 文庫 中野 孝次 文藝春秋 ¥700

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