毒杯の囀(サエス゛)り
2006年10月3日 読書
1377年のロンドン…といえば、エドワード3世が瀕死の状態にあり、その没後、まだ少年である孫のリチャード2世が跡を継いだ。
リチャード2世とは、つまりあの"エドワード黒太子"の子供である。
そう、まさしく時は英・仏が戦いに明け暮れ命を削り疲れ果てたあの百年戦争の、その直後の時代なのである。
ちょうどその頃、ロンドンの裕福な貿易商であるトーマス・スプリンガル卿が毒殺される事件が起こった。
同時に犯人と目された執事の死体が見つかって…。
さぐればさぐるほど、怪しい。
さぐればさぐるほど死人が増える。
それはよくある推理小説…かもしれない。
でも、時代は中世。
ロンドンはペストの猛威にさらされた後。
そして、強大な威圧感を持った老王がなくなり、王国の箍はいささか揺らいでいる…。
反逆の匂い。
裏切りの甘い香り…。
自殺か他殺か。
殺人であるなら、犯人は、果たして誰なのか?
この作者は初めて読む。
そして、ものすごく、リアルなんだと思う。
なにがって、ロンドンのシティの描写である。
はっきり言うなら
臭い!汚い!息をするのも我慢ならんぞー!
と、その臭気すら漂ってくるような錯覚を覚える。
読者にそこまで嫌悪感を覚えさせるのだ、著者の力量はすごい…んだろう、やはり。(でも、いい加減にしてほしいぞ)
現代日本人なら、一日たりとも生き延びられないような、そんな場所である。
どんなお屋敷で、結構な暮らしをしていようとも、一歩外に出ればすさまじい…シティの様相。
私はそんなに潔癖症でもなければ掃除魔でもないし、片付けないと我慢ならないという人間ではないが…うわー!これは我慢できないよ!
…と思いましたよ、ほんまにね。
それは時代を理解させるための作者の、あくまでも情景描写なんだろうけど、くどい、と思える。
カドフェルだってここまで酷くはなかった…。
嗚呼あれは修道院だったから?
うんにゃ。
ファルコだってここまで汚い住処じゃなかった(失礼?)
嗚呼あれはお風呂好きのローマ人か…
まあそんな有様ですわ。
そういや革命期の仏蘭西(18世紀末)だって、下水が未発達で路地は最高に汚かった。
だから貴婦人はたか〜いお靴をおはきあそばした、というぐらいだったな。
その点、百万都市江戸なんかは、美しいほうじゃなかったか。
どんな長屋でもご不浄はあったし、大家がちゃんと管理して、近在のお百姓さんに人糞を売って、その代金で正月の餅を長屋の皆さんにプレゼント♪
とりあえず、道路にばらまく、なんて汚い真似はしませんよねぇ。
お風呂も好きだったしなぁ。
やはりそこが民族性ってもんですか?
……いい加減、この話題はそれとこう。
その中で起こる連続殺人を解き明かすのは、二人の人間だ。
王様から勅許を受けた(つまり王の代理人である)検視官・クランストンと懲罰の意味を込めていやいやながらこの仕事をさせられている書記・アセルスタン托鉢修道士。
クランストンは卿であるが、のんべんだらりと暮らす人ではない。
酒びたりの酔っ払いだけど…鋭い時は(時々だけど)鋭い物言いもする。
でもメインの謎解き役はアセルスタン托鉢修道士かな。
ただの修道士ではなく托鉢修道士だ、と本人は力説するが、異教徒にはその違いは分からない。
裕福な農村の長男として生まれ、生涯を教会に捧げるべきであった彼は、若気のいたりで弟(実家を継ぐべき立場だった)を誘いリチャード王の軍隊に入り、仏蘭西で戦い、挙句、弟を戦死させて英国に舞い戻った。
悲報を聞いた両親は相次いで死亡。
それがトラウマになっている。
自分の罪だと思っているからだ。
教会からは非難され、本人も贖罪とかで意に沿わぬ仕事をさせられ続けているという。
…ということで、検視官の書記、というのも贖罪の、つまり罰なんだそうで、ぶちぶち文句を言いながらやっている。
だが、文句を言うのもわからんではない。
この飲んだくれ検視官は、まったく…のんだくれなのだ。
ジョン・クランストン卿にもそれなりの事情があるんだけどね。
ま、とりあえず、このコンビで事件の調査(検視官って警察みたいなこともするのね、と思った)に乗り出す。
汚い手もそれなりに使って…。
う〜ん。
中世だからね。
指紋もないし、解剖したってさほどは分からないしな…
そこでどうやって犯人を特定するかが問題で、ある程度推理が整っても、証拠がないと、立証できないとどうにもならない。
そのあたりが検視官も作者も腕の見せ所か。
これからシリーズもので続く模様、です。
それにしても、卿と名のつく人が、商人だったり検視官だったり役人だったり…。
ジェントリだからかいいのか、と思いつつ、中世期の身分制とかそのイメージがよくわかんないです。
貴族、とは書いてあるんですけどね…貴族?
働く貴族?
まあいいけど。
&
ところで、当時はホモ(同性愛者)は極刑だったんだけど(というのは有名な話で、中世どころかほんのちょっと前までそうだったんだけど)その刑罰というのは、いかにもシティらしい(汚らしく貧しい)サザーク地区で釜茹でなんだそうだ。
石川五右衛門か…?
でもこの小説を読でいると、多いぞ…そーゆー趣味の人間は。(大丈夫なんか?)
ISBN:4488219020 文庫 古賀 弥生 東京創元社 ?840
リチャード2世とは、つまりあの"エドワード黒太子"の子供である。
そう、まさしく時は英・仏が戦いに明け暮れ命を削り疲れ果てたあの百年戦争の、その直後の時代なのである。
ちょうどその頃、ロンドンの裕福な貿易商であるトーマス・スプリンガル卿が毒殺される事件が起こった。
同時に犯人と目された執事の死体が見つかって…。
さぐればさぐるほど、怪しい。
さぐればさぐるほど死人が増える。
それはよくある推理小説…かもしれない。
でも、時代は中世。
ロンドンはペストの猛威にさらされた後。
そして、強大な威圧感を持った老王がなくなり、王国の箍はいささか揺らいでいる…。
反逆の匂い。
裏切りの甘い香り…。
自殺か他殺か。
殺人であるなら、犯人は、果たして誰なのか?
この作者は初めて読む。
そして、ものすごく、リアルなんだと思う。
なにがって、ロンドンのシティの描写である。
はっきり言うなら
臭い!汚い!息をするのも我慢ならんぞー!
と、その臭気すら漂ってくるような錯覚を覚える。
読者にそこまで嫌悪感を覚えさせるのだ、著者の力量はすごい…んだろう、やはり。(でも、いい加減にしてほしいぞ)
現代日本人なら、一日たりとも生き延びられないような、そんな場所である。
どんなお屋敷で、結構な暮らしをしていようとも、一歩外に出ればすさまじい…シティの様相。
私はそんなに潔癖症でもなければ掃除魔でもないし、片付けないと我慢ならないという人間ではないが…うわー!これは我慢できないよ!
…と思いましたよ、ほんまにね。
それは時代を理解させるための作者の、あくまでも情景描写なんだろうけど、くどい、と思える。
カドフェルだってここまで酷くはなかった…。
嗚呼あれは修道院だったから?
うんにゃ。
ファルコだってここまで汚い住処じゃなかった(失礼?)
嗚呼あれはお風呂好きのローマ人か…
まあそんな有様ですわ。
そういや革命期の仏蘭西(18世紀末)だって、下水が未発達で路地は最高に汚かった。
だから貴婦人はたか〜いお靴をおはきあそばした、というぐらいだったな。
その点、百万都市江戸なんかは、美しいほうじゃなかったか。
どんな長屋でもご不浄はあったし、大家がちゃんと管理して、近在のお百姓さんに人糞を売って、その代金で正月の餅を長屋の皆さんにプレゼント♪
とりあえず、道路にばらまく、なんて汚い真似はしませんよねぇ。
お風呂も好きだったしなぁ。
やはりそこが民族性ってもんですか?
……いい加減、この話題はそれとこう。
その中で起こる連続殺人を解き明かすのは、二人の人間だ。
王様から勅許を受けた(つまり王の代理人である)検視官・クランストンと懲罰の意味を込めていやいやながらこの仕事をさせられている書記・アセルスタン托鉢修道士。
クランストンは卿であるが、のんべんだらりと暮らす人ではない。
酒びたりの酔っ払いだけど…鋭い時は(時々だけど)鋭い物言いもする。
でもメインの謎解き役はアセルスタン托鉢修道士かな。
ただの修道士ではなく托鉢修道士だ、と本人は力説するが、異教徒にはその違いは分からない。
裕福な農村の長男として生まれ、生涯を教会に捧げるべきであった彼は、若気のいたりで弟(実家を継ぐべき立場だった)を誘いリチャード王の軍隊に入り、仏蘭西で戦い、挙句、弟を戦死させて英国に舞い戻った。
悲報を聞いた両親は相次いで死亡。
それがトラウマになっている。
自分の罪だと思っているからだ。
教会からは非難され、本人も贖罪とかで意に沿わぬ仕事をさせられ続けているという。
…ということで、検視官の書記、というのも贖罪の、つまり罰なんだそうで、ぶちぶち文句を言いながらやっている。
だが、文句を言うのもわからんではない。
この飲んだくれ検視官は、まったく…のんだくれなのだ。
ジョン・クランストン卿にもそれなりの事情があるんだけどね。
ま、とりあえず、このコンビで事件の調査(検視官って警察みたいなこともするのね、と思った)に乗り出す。
汚い手もそれなりに使って…。
う〜ん。
中世だからね。
指紋もないし、解剖したってさほどは分からないしな…
そこでどうやって犯人を特定するかが問題で、ある程度推理が整っても、証拠がないと、立証できないとどうにもならない。
そのあたりが検視官も作者も腕の見せ所か。
これからシリーズもので続く模様、です。
それにしても、卿と名のつく人が、商人だったり検視官だったり役人だったり…。
ジェントリだからかいいのか、と思いつつ、中世期の身分制とかそのイメージがよくわかんないです。
貴族、とは書いてあるんですけどね…貴族?
働く貴族?
まあいいけど。
&
ところで、当時はホモ(同性愛者)は極刑だったんだけど(というのは有名な話で、中世どころかほんのちょっと前までそうだったんだけど)その刑罰というのは、いかにもシティらしい(汚らしく貧しい)サザーク地区で釜茹でなんだそうだ。
石川五右衛門か…?
でもこの小説を読でいると、多いぞ…そーゆー趣味の人間は。(大丈夫なんか?)
ISBN:4488219020 文庫 古賀 弥生 東京創元社 ?840
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