本日、友人から借りたてのレンタル本。
……読了してしまいましたがな。(おもしろくてさ)

この表紙は、金髪の鶏冠(とさか)頭だけど、正真正銘噺家の卵である。
そういや金髪頭に真っ赤な着物のこの表紙、本屋さんでも目立っていたな。

箸にも棒にも引っかからない不良少年・竜二は"熱血教師"古屋に無理やり噺家・笑酔亭梅寿のもとに入門させられた。

古屋曰くのその理由というのが、両親を早くなくし、親戚をたらいまわしされたのが、竜二のぐれた理由である。(悪いやつではないといいたいらしい)
だから、いまや行くところのなくなった竜二には、噺家になるしか道はない!(なんでだ?)ーと熱血教師は言うのである。
なんで噺家か、というと、この教師は元々笑酔亭梅寿の内弟子で才能がないので教師に転向したのだった。
そんなわけで、無理やり内弟子にさせられた竜二であった。

ちなみに、この笑酔亭梅寿という師匠。
もとは上方落語のおえらいさんだったらしいが、その名の通り酒の飲みすぎでろれつが回らない。
家では常に酔い、招待先でも酔ってごろを巻く、暴れる…で、挙句の果ては、近くの公園で△○◇……。
その面倒は、新人内弟子の竜二の肩にすべてかかってくるのである。(逃げ出したくもなるわな)

熱血教師が学校長だけでなくヤクザ相手にも怯まぬ強面の教師だった理由には、このわけのわからぬド迫力の笑酔亭梅寿の存在があったわけだ。(つまり、鍛えられた)

本人の意思をすっとばし、内弟子にさせられた竜二は理不尽な上下関係にびびりつつ嫌気が差しつつも、なぜか次第に"落語"というものに魅かれてゆく。
おまけに、実は(本人が気がついてないだけで)噺家の才能があるのだ。
周囲の人間が「天才や」というのを信じず、「落語なんかおもろない!」とうとましく思っている。
それがまた、才能のない兄弟子には腹が立って仕方がない(当然だな)

そんなこともお構いなし、破門された途端、漫談の道を考えたりするのが竜二である。
時々、周辺で巻き起こる事件の推理などしながら、だが。

金髪の鶏冠頭は絶対切らない!(…はアイデンティティだろうか?)
つっぱる竜二だが、未成年に酒は飲ます(噺家は治外法権なんだそうだ)、酒瓶で殴る、蹴る、わけの分からない屁理屈でこき使われ苛められ(可愛がられ?)るんだな。

元々突っ張りだから口は悪いが、そんなもの、海千山千の芸人たちに通じるはずもない。
とくに何をやるやらわからない師匠・笑酔亭梅寿には。
そのうち周りの理不尽な大人たちに丸め込まれている……のに、本人は気がついていないし(笑)
たぶん本人も気がつかないうちに、兄弟子や師匠にたいしては、随分礼儀正しくなってるし、ガマンも出来るようになってる。

おうおう、随分大人になったじゃぁないか、竜二、と声をかけたくなる成長振り。
つっぱり時代につるんだ仲間も立派に一人前になっているし、いつまでも子供じゃない、自分のやりたいことは何か、と人生の意味(意義)に気づくあたり、読者にもちゃんと時の流れ(成長)を感じさせる。

短編が7編並んだ、その標題のひとつひとつは落語のネタで、きちんと内容も示してくれる。(「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」「子は鎹(かすがい)」「千両みかん」)
かつ、そこに著者独特の"絡み"も入れて、推理も入れて、ハイ、謎解き!チョーン!と言う感じで"オトす"のだ。

事件の内容も、殺人から勘違い(事件性なし)までいろいろ取り揃えてございます。

著者はもともと推理小説家。
同時に落語のファンでもあり、噺家の監修も受けてのこれの作品である。
一方は専門でも、もうひとつ、落語のような独特の世界を取り込んで消化して、ちゃんと推理小説にもなっているという凄さ、初読の作家だけれど感心するばかり。

標題の7つの話のほとんどを私は知らなかった(「時うどん」ぐらいは流石に知っている。今なんどきだい?ってやつ。)けど、本編の落語も聞いてみたいな、と思ったのだから、落語に興味をもって欲しい!という著者の作戦は見事成功したと言える。

竜二、改め、笑酔亭 梅駆。
やっぱ赤い着物で高座を勤めているのかなァ。

梅駆というのは、昔の仲間のバイクにのって(師匠の)借金取り(明らかにヤクザ)から逃げ出したとき、いい加減にも師匠・笑酔亭梅寿が思いついたのだった。
彼の弟子は多かれ少なかれ、そういう命名をされている気配があるのだが…かわいそうに。

ストレスに、落語を聴くのはいいかもしれない。
馬鹿笑いすれば疲れも吹っ飛ぶかもしれない。
落語集のCDとか売っているのもしっている。
興味はあるけど、高価だからなー。

ISBN:4087460746 文庫 田中 啓文 集英社 2006/08 ¥560

コメント

ボースン
ボースン
2006年9月11日6:38

>やっぱ赤い着物で高座を勤めているのかなァ。

ちょうどシリーズ二巻目(ハードカバー)もこの夏出ましたから、彼の成長振りがまた読めそうですよ。
現在納品待ちで私も二巻目は未読ですが…
やれやれ早く来て欲しいな。

翠雲
翠雲
2006年9月11日16:11

>ボースンさま。
ハードカバーから文庫に"変身"するまで、しばし時間がかかりそうですね。
でも、続巻が出る(シリーズ化?)ということがわかって嬉しいです♪

nophoto
はや
2006年9月14日21:33

本屋でなんとなく購入して、非常に楽しく読めました。
続編もあるんですね。でも文庫になるのは何年先なんでしょう。

天才的な噺を実際に聞けないのが非常に残念です。

翠雲
翠雲
2006年9月17日13:29

>はやさま。
気楽に待ちましょう。
(私なんか、友人からのレンタルですから…)

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