サスペンス小説である。

PICとは、フライトの総指揮を執る機長のこと。
対して、SIC(セカンド・イン・コマンド)機長が休息などで不在の時、変わって四季を執る第二位の機長のこと。
それに副操縦士が加わって飛行機は飛ぶ。

昔は無線係というか…もう一人いたんじゃなかったっけっか?
航空会社もオイルの値上げだとか競争だとかで大変なのであるな。
この小説にも随所にその様子(組合のこととか、会社経営で困ったことが起きている様子とか)がちらほらと見えている。

ただ…日本の航空会社はそれでも高い。
運賃が高い。
椅子の幅とか前の椅子との距離とか、国際的にも高い水準だから仕方がないという意見もあるにはあるが、やっぱり高いと思う。

それはさておき。
著者は元機長。
だから描写がとってもリアルで臨場感がある。
だって、普通の作家だったらそんな知識はないだろう。
マニアでもない限りは。
いや、マニアでも無理じゃないかな?
シベリア上空を航行中に見えるオーロラとか、欧羅巴を夜に行く時の下界のライトの色とか、操縦席でなければ…と思う描写がたくさんある。
それはCA(昔で言うスチュワーデスだ。現在のキャビンアテンダントのこと。)の作業の流れとか専門用語とか…とにかく感心してしまう。
あと、とんでもない苦情を繰り返していい席にアップグレードをしてもらおうとするはた迷惑な客(常習)とか。←実際こんなのが居るのかと驚き。今は機長権限で追い出せるんだっけ?

あれもこれもリアルで、だからこのサスペンスもぐっと重みが増すんだろうなぁ。

倫敦発NIA202便はその出発時から不吉な陰が付きまとっていた。
国際手配の犯罪者の護送。
その口をふさぐための陰謀の陰。
不可解な機体の振動。
トイレに捨てられた救命具。
…嫌われものの機長・タヌキ…じゃなくて、砧。

いつなにが、どのように行われるのか。
CAたちの推理と捜索と、そして次々に起こる不具合。
とうとう爆発をおこし、窓のひとつが割れて飛んだ202便は、無事に地上に帰れるのか?
操縦できるのは、副操縦士の江波だけ…

二転三転の挙句、意外な結末が訪れる。
あんまりやん!と心の中で思う私である。
CAの努力も、機長の努力も、報われへんのなぁ〜とかなり同情方向へ傾くのだが、これが本当の航空業界の姿かもしてない。
つまり、"地上のお偉いさんがた"VS"現場"の考え方の大きすぎる違い。
危機感の温度差。
現場の人間がどんなにやきもきしても、安全圏にいるくもの上の方々には届かないのかみしれない…というのは、なにもこの業界に限ったことではない。
どんな会社でもその食い違いはあって、現場や下っ端は歯噛みして、歯軋りして唸ったり怒ったりしてるもんなのだ。

最期の緊急着陸の描写は感動的ですらあった。
作者に言わせると、緊急着陸時の救命胴衣のつけ方や酸素の補給の仕方や非常口の確認や姿勢のとり方やあれこれ…椅子の前のポケットに常置されている説明書を読まない人が圧倒的に多いけれど、何か事があったとき、それを読んでいるのと読んでいないのとでは、率が大きく違うのだそうだ。

この率と言うのは単にケガをする・しないではなくて、もろ、生存率のこと……。(航空機だからね)

それを知ってもらうために、この小説を書こうと思ったとの事。(暇だった、というのもあるらしいが)(笑)

そう、航空機だから、「事故があったら助からない」と思って読まない人は言うらしいけれど、航空機の利用者で事故で死ぬ人は統計的に数%である。
説明書をしっかり読んで、イザと言う時に逃げ出せるように心の準備をしておくだけで、生存率はどん!と跳ね上がるのだそうで、おお!っと私も考えを改めた次第である。
そうかー。
今度航空機に乗るときは、救命胴衣のつけ方と非常口の確認(最低二つは認識しておくべきなんだそうだ)は最低やっておこうと決意した次第である。

ちなみに、2001年9月11日の同時テロ以来、コックピットの見学は不可能になった。
……ってことはーそれまではOKだった…。
惜しいことをした!
見たかったなぁ…って言うほど海外旅行行ってませんけど(笑)


ISBN:4101160449 文庫 内田 幹樹 新潮社 2006/08 ¥580

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