もう亡くなった方なんですが…いやなんか。
今読んでも新鮮だ、と思えるエッセイです。
主題ごとに分かれているが、日本でのことよりも、仏蘭西やイタリアで学生をやっていたときのこと(必ずしも年齢で判断するなかれ。年はとっても学生は出来るのである)が、一番多くて、一番面白い。

最初に、仏蘭西に留学し、イタリアに留学し、帰国して、またイタリアへ(仕事で)。
戦前生まれの方だから、最初の仏蘭西留学なんて、サンフランシスコ条約以前の話ですわ!(1950年代初め)

父上が会社(というか商家)を経営されていたとかで…その父上も30歳で世界一周旅行(シベリア鉄道⇒南欧⇒中欧⇒英国⇒米国)したり、という国際派なご一家だった。
だが、必ずしも家の中が円満だったわけではなく、父と母とのギクシャクだとか、祖母と母とのギクシャクだとか、まぁいろいろ…。
何を読んでも、「昔の日本だなぁ」と良くも悪くも思ってしまう話が多い。

父上がある日家を出たきり家に帰ってこない。
会社に電話をすれば秘書が「出張」だと何とかの一つ覚えで返事する。
「体調が悪いと言っていた」
「通いの病院は京都の大学病院」
だが。
母曰く、
「女の影がある」
と。
「世界一周旅行に出かけるときも、見送りにきていた」(←10年以上前の話です。凄い記憶力。そして女の勘はやっぱり凄い)
予感がして京都の大学病院へ言ってみれば、ばっちり!
父はいたが、見知らぬ女性もつきそっていた…のを娘(長女)である著者が目撃。
「家に帰って」
と、20歳にしては随分と落ち着いた口調で父に告げて家に帰ったという。

ほら。
まるで、古い小説を読むようじゃありませんか。

それでも、あの時代で、日本に閉じこもったままではなく、欧羅巴世界へ足を伸ばすことを支えてくれたのはそういう父であり母であったのだろう。

夫となったイタリア人男性とは5年少々で死に別れた著者だが、一度はどん底まで落ち込みながら、前を見て歩けたのは、著者の強さだけではなくて、こんな家族の力もあったのだろうとおもったりするわけなのである。

あまり馴染みの無いイタリアの風情がうかがわれて、それも面白い本だ。
夏のヴェネチィアだけには決して行ってはいけないということも、よっく分かった。

いいの。
ベネチィアには、お祭のある真冬に行く予定だから……って、いつの話だ?

ISBN:4560073546 新書 須賀 敦子 白水社 2001/10 ¥998

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