与太郎戦記

2005年6月23日 読書
夕べ、「アーニャ」の後に読みだしたら、とまらず、そのまま夜中、読了してしまった。

暗くなり過ぎず、気負いもせず、あくまで本人の体験談。
友達が、同期が、上官が、敵弾によって斃されてゆく…つまり死んでゆく。
それも「慣れてしまう」「毎日のことだ」と言いながら、戦いの中に身を置くしかないのが当時の若者たちだった。
だからどうなのだと、
この戦いの意義をどうかんがえるのかと、
何が正義なのかと、
そんなことは、戦いが終わって、平和になってこそ、生き残ってこそ考えも至ることなのだ。

どのように考えても、誰が考えても、命はあるまい、という作戦にも「仕方あるまい」と散歩に出かけるような口調で出立する著者。
そこに感情が無いわけではない。
だが、喚き、嘆き、戦争の善悪を哲学するほどの余裕はないのだ。

終戦後、一念発起して噺家の道を選んだ著者の、なにひとつ飾らない、ある意味正直な気持ちを綴った一冊なのだろうと思った。

だがしかし。
大陸(中国)へ出発するまでにさんざご飯を食べさせてもらい、タバコだのお小遣いだのを貰い、最後にはお守りまで貰った春子さん。
その後、なんの消息も無いのが寂しい。
終戦後しばらくして結婚した奥様は春子さんではなかったのだ。
春子さん以外にも、台湾や上海や香港に住んでいた知り合いの一般人たちのその後が詳しく語られてはいない。
語られていないことが、たくさんのことを暗示させて、逆に意味の深い物語となっていると感じる。

あぁ、それと。

輸送船の護衛勤務(といっても海軍ではなく、甲板に頑張って、機関銃と著者曰く"花火"を敵機に向かってあげるのが仕事)で台湾によるたびにバナナばっかり食べている…というのがとても印象深かった。
上海の仲間たちへのお土産に、と考えてたくさん買い込んだものの、日とともに腐って行くので片っ端から食べねばならぬ。
土産に残ったのはほんのひとかかえだった、と。

ISBN:448042069X 文庫 春風亭 柳昇 筑摩書房 2005/02/09 ¥819

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