旅行のお供に持参した本なので、振り返っての乱読日記である。

「気弱な海尉ジェラルド」を手に取ったのは、太平洋上を東に向かって航行中のNWA(ノースウエストエアライン)機内のことであり、「気弱な海尉ジェラルド」を読了したのは、太平洋上を西へ向かって航行中のNWA機内でのことである。

海尉ジェラルド…
正体の知れんヤツ、というべきか。

おまけにこれは海洋冒険小説というよりは、海洋冒険推理小説だしな…。

気弱、で表現されるほど、単純ではない。
生真面目に前向きに、一所懸命に全力でチャレンジするヒーローからは程遠い。
牧師の息子で自ら
「海軍に向いてない」
「もうやめようっかな」
と、自分の悪所をつらつらと語るなんて、フツーではない。

それに、何か言われると呆ける。
わざとか、天然か。
読者が、
「ここでそんなボケをかますなよ〜」
と思うぐらいだ。

関西人気質なのだろうか。

己のボケで次々と墓穴を掘ってゆく(そして自分でもそれが分かっている。そしてなんか冷静だし)ジェラルドである。
海軍省で重要な地位を占めている叔父のお陰で
「海尉になり」
「大過なく過ごし」
等と語っているが、海尉任官試験がそんなに甘いものでないことは今までの海洋冒険小説で散々読んできたことだ。
(とりあえず受かっちゃえばあとは縁故の世界だが)

海上ではただいま現在の状況の把握もどうやら出来ているようだし、コネだけで、何の知識もなく海尉になったわけでもないらしい…などなどが伺われるので、ますます「正体の知れない怪しいヤツ」扱いになる。

ナポレオン戦争中の英国、のドーバー辺り。

密輸業者が暗躍するのは地の利から行って当然である。

歴史的な事実も交え、意外な事実も織り交ぜて、それなりに面白い物語ではあるが……海洋冒険小説…じゃないよなぁ、やっぱり。

帆船上の描写がほとんどないのは、既存の海洋冒険小説の読者には、やはり耐えられないよなぁ、と思うのだが。

ISBN:4150410801 文庫 高津 幸枝 早川書房 2005/04/21 ¥945

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