題名と表紙の絵からのみ推測すると、官能的な小説かしらん?とも思うかも。

内容は(六分の一読んだ今のところは)千夜一夜物語である。

あ、あれも似たようなものか…。

自分の命を永らえさせんと、賢い乙女が語る、一夜づつの物語。
千夜のうちに王は乙女を心から愛するようになる。

ナポレオン率いるフランス軍から、世界から取り残され、時を刻まなくなって久しい目先の平和を守るため、架空の話を織り上げる"夜の種族"の語り部。

ああ。
なんか…怪しすぎる。

当時のエジプトはマムルーク(白人奴隷)によって成立しているマムルーク王朝である。
ま、そもそも生粋のエジプト人なんてのはとうの昔に滅びていると言って良いんだけど。
アレキサンダー・ザ・グレート配下の名だたる将軍がその地の王となった頃には、既に混血は当然のこととなっていた。
その王朝の終末期の女王、クレオパトラも叉、ローマの前に膝を折ることになった。

エジプトが栄えた時代の有名な美しき王妃、ハトシェプストなんかも外国人と言われている。
別に珍しい事象ではない、ということだ。

エジプトでは、王家に生まれた女性が王位継承権を持つ。
その女性と結婚することによって男は王になることが出来る。
で、結婚してしまってから、王妃を殺し、周辺の有力国家・有力部族から新たな王妃をもらう……の繰り返し。
これで揉めないほうがおかしい。

という、特殊な家族制度のエジプトであるから、内乱とお家騒動と侵略はどうやったって逃げられない枷であった。

西ローマ帝国、すなわちビザンチン帝国を滅ぼしたオスマントルコがエジプトを支配していたはずなのだが、実際には、オスマントルコから派遣されるパシャ(総督)は飾りで、その周りを固めるベイたちが地元豪族として実権を振るっていた。

つまり、そういう悪弊をなんとかしようなどと決意して、ベイたちの意に沿わぬことをやらかすパシャは、人知れぬうちに命を落とすことになる。
そして、その犯人も陰謀も決して明るみに出ることはなくすべてはうやむやのうちに収められる。
だからそのうちパシャは何もしなくなる。
攻め込むフランス軍に対して軍を挙げたのもパシャではなく、ベイの一人である。

そういう場所で、そういう時代だった。

いや。
そういう有様はここ、属州のエジプトだけではない。
オスマントルコ本国、イスタンブールにおいても同じことが多々行われていたのだ。
王が変わるたびに、大粛清があるのは何処の国、どの王朝でも同じだが、オスマントルコに有っては、スルタン(皇帝)は周りを固める親衛隊によって決められる。
親衛隊にとって邪魔な王子は人知れぬうちに闇に葬られてしまう。
そうして担ぎ上げられたスルタンは、自分のなしたいがままに権力を振るうことは、当然絶対出来ない。
また、自分たちが担ぎ上げたスルタンであっても、邪魔だと判断すればすぐに暗殺。
首のすげ替えを堂々としてしまう。

オスマントルコ帝国において絶大なる力を有するもの。
それが、本国においては親衛隊であり、ここエジプト属州においてはマムルークである。
オスマントルコ帝国はかなり長命の帝国だったけれど、内部はこのように腐りきっていた。で、腐ってた割りに前世紀までしっかり存在した。
最後のスルタンは、英国かどこかに亡命したような気がする…。最後は文字通リ"逃げ出した"わけだ。

ちなみに親衛隊っていうのは、一時日本で"トルコ軍楽隊"というのがとんでもなく流行ったのだけれど、つまりアレのことです。

マ○オ・ブラザーズみたいに見えたけど、でっかい帽子をかぶってリボンをひらひらさせて、楽器を吹き鳴らしてにこやかに行進している道楽者に見えたけれど違う。
大いに違う。
ああ見えても、単なる暢気な髯のおやじではなかったのである。

話の中枢はナポレオンのエジプト侵略らしいのだけど、アラビアの歴史が好きな人には、最初からぞくぞくする展開が広がる、楽しい本なのである。

ISBN:4048733346 単行本 古川 日出男 角川書店 2001/12 ¥2,835

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